列島縦断AMR対策 事例紹介シリーズ ~地域での取り組みを日本中に“拡散”しよう!~

学生による抗菌薬適正使用啓発キャラバン「Smile Future JAPAN」

第1回 AMR対策普及啓発活動 薬剤耐性対策推進国民啓発会議議長賞
2018年3月

「医学生だからこそできる活動で貢献したい」

イベントを主催するのには、何名ぐらいのスタッフが必要だったのでしょう?

高橋氏 総勢35名です。医学部生だけでなく、学内のメーリングリストや部活動の伝手をたどって協力を呼びかけました。結果的に多くの薬学生や看護学生が積極的に協力してくれ、たいへん助けられました。

AMR対策の啓発を、医師や薬剤師などの専門家ではなく、学生がやることの意義はどのような事だとお考えですか?

高橋揚子 氏

高橋氏 イベントを企画・運営してみて気づいたことなのですが、学生という立場はいろいろな人たちとコラボしやすいということを実感しました。例えばイベント開催にあたって地域の医師会や薬剤師会、病院などに後援いただけないかとお願いすると、「学生がやろうというなら応援しよう」とおっしゃり、割と簡単に了解いただけました。医療従事者と市民との間に位置できるのが学生で、まだ自分たちの立場が確立していない分、他者との‘垣根’が低く、思いついたことを気兼ねせずに実行できると思います。

 また医学生でも1年生や2年生だとまだ専門知識が乏しく、市民目線に近い発想ができます。彼らから出てくるアイデアはとても新鮮で、ドクターになった後ではなかなか考えつかないのではないかという企画を立てることができました。

そもそも、なぜ学生の時にSmile Future JAPANを立ち上げ、AMR対策に関わろうとお考えになったのですか?

高橋氏 きっかけは、小児科医を目指す医学生のネットワーク「こどもどこ」です。医学部を受験するころから小児科に興味をもっていたことから、私も「こどもどこ」に参加し活動していたのですが、医学部5年生になった時に代表をされていた先輩から「引き継いでほしい」と話があり、代表を務めることになりました。

 「こどもどこ」の代表として他大学の学生とミーティングを重ね、外部の専門家を招いての講演会やワークショップを企画し開催するなどの活動を続けていました。そのような活動を通して自然に医学部以外の学生と交わる機会も増えていきます。他学部の学生の中には、自分たちが大学で専門教育を受けるだけでなく、習得した専門知識を社会に発信し還元するという目的をもって行動している人たちが少なくありませんでした。そんな姿に私も刺激を受けたのです。

「こどもどこ」とは

「こどもどこ」は小児科医を目指す各地の医学生を中心に2005年に結成され、2006年に日本外来小児科学会に承認されたネットワーク。小児科医療に関わる医師や看護師、学校教諭などを講師に招いての勉強会を開催するなど、全国規模で活動している。WEBサイト ▶

こどもどこ WEBサイト

「こどもどこ」で他学部生から受けた刺激がAMR対策の啓発に発展していった?

高橋氏 それまで医学生とは医師になるための勉強をするのが本分だと思っていたのですが、それだけで本当に良いのかとの疑問が生じたのです。医学生でもできること、医学生だからできることがあるはずだと気づき、それを行うことで社会に貢献する活動をしたいと考え始めました。

 ちょうどそのころ、「こどもどこ」のイベントで小児感染症ご専門の先生に講演いただく機会があり、AMRが問題になっていることを知りました。ご承知のようにAMR対策は医療従事者だけでできることではなく、市民の関心を高め社会全体で取り組まなければ実効を上げられない課題です。そして、抗菌薬が最も多く使われる対象は小児であるということも、医学生の知識としてもっていました。この2つを重ねあわせ、「こどもどこ」の活動を発展的に拡大することで自分たちがAMR対策に貢献できるということに思い当たったのです。

 すぐに「こどもどこ」のメンバーに声をかけ、大学でお世話になっている先生方に指導いただきながら、医学生レベルでAMR対策の啓発を考える母体として「Smile Future JAPAN」を設立しました。その後、全国各地で先ほどお話ししたような活動をスタートしたというのが、これまでの経緯です。

 「Smile Future JAPAN」という名称は「抗菌薬の有効性を未来へ伝えて子どもたちの笑顔につなげる」というメッセージを託して名づけたのですが、今は少し「風呂敷を広げ過ぎたかな」という気もしています。まあ若気の至りみたいなことでして(笑)。

内閣官房からの受賞は、「これからも頑張れ」という賞ではないかと

先生が卒業された後のSmile Future JAPANの活動は?

高橋氏 後輩たちがパワーアップして続けてくれています。後輩たちは今、「まず仙台でイベントを定着させて地盤を作り、それから同じ手法を他の地域に広めていきたい」ということを言っています。私は今、アドバイザー的な位置にあり、相談にのったり、一緒に活動してくれそうな学生を紹介したりしています。

Smile Future JAPANの活動が評価され「薬剤耐性対策推進国民啓発会議議長賞」を受賞されたご感想をお聞かせください。

高橋氏 ラッキーだったという思いが大きいです。ちょうど国がAMR対策を本格的に始動した時期だったので、注目されやすいタイミングだったという点でもついていました。もちろん、多くの先生方や先輩方に惜しみないご助力をいただけたこともそうです。そんな多くの後押しを受け、受賞できたのだと感謝しています。

 授賞式に出席してわかったことは、私たち以外に受賞された人たちはみなさん、その道で何十年も着実に成果を積み上げてこられた方ばかりだということです。そんな方々の中で私たちだけが学生のグループ。他の受賞者の方のスピーチを聴きながら、心の中で「私たちが受賞していいの?」「若さとパワーが評価されたのかな?」「これからも頑張れ!と言ってくれているのかな?」などと考えていました。

内閣官房表彰の授賞式
内閣官房表彰の授賞式
左は、薬剤耐性(AMR)対策普及啓発活動表彰審査委員会・委員長の毛利 衛氏

先生ご自身は現在、研修医をされている中で、なにかAMR対策につながるような活動をなさっていますか?

高橋氏 現在、研修を受けている亀田総合病院のスタッフで近くの幼稚園に出かけていき、園児にAMR対策の必要性を伝えるイベントを開催するといったことをしています。主に仙台で行った経験を生かして、配役や設定を少しアレンジした演劇などを園児に見てもらうといった内容です。

 このイベントを発案した当初、すぐに声をかけられる初期研修医の仲間だけでやることも覚悟していました。ドクターはただでさえ分刻みで勤務していますから、初期研修医のアイデアなど相手にされないのではないかと。

 ところが、そんな不安を抱えつつ上司のドクターに相談したところ、小児科ドクターを中心にたくさんの方々から「面白そうだね、一緒にやろう」と言っていただけました。研修を管轄している指導医は、多くの研修医がイベントに関われるようにスケジュールを調整してくださいました。

ためらっていないで、まず始めてみることが大切なようですね。

高橋揚子 氏

高橋氏 学生のときと同じように、病院においては「まだ研修医だから」ということで、多くの立場の方々から協力を得られやすかったのではないかと思います。また、Smile Future JAPANの活動で受賞していたことが“箔”になって、1人の研修医の思いつきでやる生半可なものではないとわかっていただけたのかもしれません。イベントが終わった後、多くのスタッフから「来年も一緒にやりましょう!」と言っていただけたことは望外の喜びでした。

 幼稚園の先生方はとても図工が上手で、準備のために必要なアイテムの完成イメージを写真で送信すると、ものの見事に作っていただけ非常に助けられました。

研修医として働き始めて、新たに気づかれたことは?

高橋氏 AMR対策に関して言えば、市民啓発も大切ですが、私たち医師の側もきちんと勉強することが大切なのではないかと思いました。ここ亀田総合病院は感染症の専門医がいて、我々研修医はしっかり抗菌薬の使い方を習得できます。しかしそうでない施設もまだ少なくないのではないでしょうか。

 私の研修中にも、他院で広域抗菌薬を多剤処方され、耐性菌に罹患して送られてきた成人の症例を複数、見聞きしています。AMR対策は「未来のため、子どもたちのため」の対策と表現されることが多いのですが、実際には既にもうAMRの影響で苦しんでいる患者さんがいるということです。

そのような現状を変えていくためには、先生のようなこれからの若いドクターが果たす役割も大きいのでは?

高橋氏 そうなのかもしれません。

最後に、いま医学部に在学している学生へのメッセージをお願いします。

高橋氏 学生という立場でもできること、学生という立場でしかできないことというのは、学生時代にはなかなかわからないかもしれません。しかし、それぞれの立場の‘強み’というものが必ずあります。遠慮せず、学生のピュアな気持ちを大切にして、面白そうだと思ったら、まず始めることが大切です。そうすれば周囲の大人たち、先生や先輩が手を差し伸べてくれます。みなさんがそれぞれの‘強み’を生かして仲間を増やし社会に貢献していけたなら素敵だなと思います。

(このインタビューは2018年2月13日に行いました)

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