列島縦断AMR対策 事例紹介シリーズ ~地域での取り組みを日本中に“拡散”しよう!~

お母さんたちに向けた子どもたちのための“つなひろ”の啓発活動

第2回AMR対策普及啓発活動「薬剤耐性へらそう!」応援大使賞
2019年3月

AMR対策の基本をお母さんの心に届ける

「ここだけは知っておいて!」という、実践的な情報を提供

講座の様子を教えてください。

野村氏 講座は、前半30分は講義で、後半30分は質問タイムの2部構成です。前半の講義では、子どもが泣いたり笑ったり、ワイワイした中で行いながらも、必要な情報はもれなくお伝えしたいので、必ずA3のスケッチブック、画用紙24枚の紙芝居的な資料をお示ししながら、行っています。スケッチブックはいつでもどこでも使える点が便利です。毎回、気付きがあって、ちょっとずつバージョンアップしています。

 また、お母さん同士のやりとりを促すこともポイントです。お母さんは、同じお母さん、いわゆる「ママ友」からの影響が大きいので、「3人子育てしている◯◯さんはどう? お兄ちゃんの余った抗菌薬を妹に飲ませたことない?」など、積極的に参加者を巻き込むようにしています。講座の最後に「今日、聞いた話、ママ友にも教えてあげてね」と協力をお願いすることも。私自身も講座の中では半分は看護師、半分は参加者と同じ「母親」の目線でお話しするようにしています。

つなひろの講座
つなひろの講座

総合子育て支援センターで開催された、つなひろの講座の様子と、
野村さんのアイデアがつまったスケッチブック。

薬剤耐性について、どのようにお母さんたちにお話しされていますか?

野村氏 「薬剤耐性」という言葉は、お母さんたちにとってあまり馴染みのあるものではありません。「抗菌薬」という言葉も耳慣れない方が多いですね。でも「抗生物質のことだよ」と言うと分かってくれます。ですから冒頭から薬剤耐性の話を切り出すのではなく、まずはテーマに沿った話をして、そこから抗菌薬の話につなげて展開するようにしています。インフルエンザや、ヘルパンギーナ、手足口病といった夏の感染症の話題のときは、話を展開しやすいですね。また過去の講座に参加された保護者のお薬手帳を例に見ながら、「ここで抗生物質が処方されているから、今回は処方されなかったんだね」など、実際の処方体験と絡めて薬剤耐性に話をつなげます。

 そして、抗菌薬が効かない細菌が出現して、治療が困難になることがあるから、そうならないためにはどうしたらよいのか、つまり医師の処方のとおりに服用することが重要で、お兄ちゃんにもらった抗菌薬を同じ症状だからって妹にも飲ませたり、良くなったからといって途中で服用を中止したりしてはいけないことを伝えます。私の印象では、お母さんたちは理論的な話よりも、実用的な情報を求めておられるように感じているので、薬剤耐性の難しいメカニズムをお話しするのではなく、「これだけは知っておいて!」というポイントだけをお伝えするようにしています。

紙芝居
紙芝居

紙芝居形式で、シンプルに分かりやすく伝えるのが、野村さん流。

お母さんたちの反応はいかがですか?

野村氏 「薬剤耐性のことは、テレビで見て知っています」という方や、「抗菌薬は万能薬だと思っていました」「良くなったらなるべく早めに飲むのをやめた方がいいのかと思っていました」という方もいらっしゃいました。でも、お話しをすると、身近なことととらえて、きちんと理解してもらえています。皆さん、お子さんの健康に直結するお話ですから、とても熱心です。

 まだ病気をしたことのない小さい赤ちゃんをお持ちのお母さんたちも、お母さん自身は抗菌薬を服用した経験があるので、「お母さんたちも風邪のときなんかに抗菌薬もらったことあるよね。私もこの前、親しらずを抜いたときに抗菌薬が出ました。化膿したり、バイキン入ったりするといけないからね」と身近な話を用いると響きやすいですね。

医療者とお母さんたちはともに子どもを守るチームメンバー

そのほかにお母さんたちにお伝えしていることはありますか。

野村氏 受診のときのちょっとしたコツもお話しします。急な発熱であわてて受診するときなどでも、きちんと症状を伝えられるように「熱型表」をつけるとか、変な咳が気になるならその動画を撮っておく、急な発疹はすぐに消えることもあるので写真を撮っておくとかです。医療者とお母さんたちはもっとうまくコミュニケーションがとれたら、お互いもっとハッピーになれると思います。医療者とお母さんたちはともに子どもを守るチームのメンバーなのです。

 また対等な立場なのですから分からないことは遠慮なく聞くべきで、例えば「この抗菌薬はなぜ必要なのですか」と聞いてもかまわないのです。いや、分からなければむしろ聞くべきです。もしかしたら、医師も薬効のみではなくて、「何か薬を出すことで、お母さんも安心するだろう」という気持ちがあるかもしれません。そんなとき、お母さんの方から抗菌薬の必要性を問うことで、「もう少し様子をみましょうか」となるかもしれません。きちんと投与の理由を教えてもらって納得して子どもに服用させられた方が、お母さんも安心ですよね。

医療者とお母さんたちとのコミュニケーションが足りないとお考えですか。

野村氏 うまくいかないこともあると思います。スライドを用いて行うような、大きなつなひろの講座では必ず冒頭で、夜間救急の医療者とお母さんのコミュニケーションギャップを表現した3分のオリジナル動画を流すようにしています。これは看護師さんたちの勉強会でも流します。内容は、夜間救急に子どもを連れてきたものの受診まで待たされてイライラするお母さんと、救急車でひっきりなしに運ばれてくる重篤な患者さんの対応でグッタリと疲れた医療者のお話です。お母さんは「こんなに待たせて!」、医師は「こっちだって忙しかったんだから!」と怒ってしまう。でもここで相手の気持ちを考えて、一言「お疲れなのに診ていただきありがとうございます」「長くお待たせしてしまってすみません」とお互い優しい言葉をかけたら、まったく違う雰囲気になるのではないでしょうか、と問題提起するというものです。

 『こうすべき』とは言いませんが、決して押し付けではなく、お互い自然に相手を思いやる言葉が出るような社会になるといいですね。医療者もお母さんも、子どもの元気を取り戻したいという願いは同じです。お互い悪くないのに、険悪なムードになってしまうのは残念なことだと思います。そして、間に挟まれた子どもはもっと悲しいですよね。その点をわれわれ医療者もお母さんたちも、ちょっとだけ考えてもらえたらいいなという思いで作成しました。

紙芝居
紙芝居

医療者と保護者のコミュニケーションの大切さを考える、
つなひろのオリジナル動画。

看護師さんの活躍でもっと安心して子育てできるように

今回の受賞の感想を教えてください。

野村氏 2016年に岡崎市の企画であった「新世紀岡崎チャレンジ100」に採択され、つなひろとして活動を開始しました。地元の新聞にこの活動について自分から紹介したところ、記事として取り上げてもらい、それがきっかけでテレビにも紹介いただきました。そして2018年度から岡崎市の市の事業として活動できることとなりました。今回、「AMR対策普及啓発活動表彰」に応募したのは、こうしたチャレンジをすることで、また何か活動にプラスの方向に動くことができるのではないかという思いからです。受賞させていただき、つなひろの活動が公にきちんと認められたと感じてうれしかったですし、自信ももてました。また、公になることで、活動そのものがやりやすくなったと感じています。

今後はどのような活動を計画されていますか?

野村氏 つなひろの活動をもっと広げたいと思っています。昨年11月に市内の小児クリニックの看護師さんたちにメンバーの募集を行ったところ、5カ所のクリニックから11人の看護師さんが集まってくれました。今後はメンバーにそれぞれのエリアを担当してもらって開催していきたいと思います。
また、薬剤耐性、予防接種、事故予防といった、お母さんに必ず知っておいてもらいたいことは、例えば、乳児健診のときに情報提供ができるといいと思い、今、そのようなシステムをつくる活動をしています。乳児健診はほぼ100%のお母さんと話せる絶好の機会です。こういう場で話しておけば、実際に抗菌薬を処方する際に、医師から「乳幼児健診でお聞きになったとおり」と切り出しやすいこともメリットだと思います。

最後に、これからの抱負をお聞かせください。

野村氏 啓発活動の効果はすぐに数値で表れてくるものではありません。だからこそ、継続していかないといけないと思っています。病気の子どもを前にすると、みんな不安だから救急にかかるし、薬をあげたり、医師にみてもらったり、何かしてあげなくてはと必死な気持ちでいっぱいになります。何か薬をと抗菌薬をほしい気持ちも出てくることもありますよね。
でも、お家でゆっくり休むことも立派な治療の一つなのです。ですから、お母さんたちに「夜、救急にかけこまなくても平気だったね」「抗菌薬飲まなくてもちゃんと治ったね」という成功経験を得てもらうことで、本当の意味で理解してもらえると思っています。小児クリニックの看護師さんがもっと活躍して、お母さんたちがもっと安心して子育てできるようになるといいなと思っています。

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