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抗微生物薬適正使用の手引き 第三版 ダイジェスト版

目次

Ⅰ 急性気道感染症とは

Ⅱ 急性下痢症とは

Ⅰ 急性気道感染症

Ⅱ 急性下痢症

Ⅲ 小児において気をつけるべき薬剤について

*患者・家族への説明

入院患者の感染症に対する基本的な考え方

1 診断・治療のプロセス

2 マネジメント

Ⅰ 急性気道感染症とは

対象:基礎疾患のない学童期以降の小児と成人

急性気道感染症は、急性上気道感染症(急性上気道炎) と急性下気道感染症(急性気管支炎)を含む概念であり、 一般的には「風邪」、「風邪症候群」、「感冒」などの言葉が 用いられている。
「風邪」は、狭義の「急性上気道感染症」という意味から 「上気道から下気道感染症」を含めた広義の意味まで、様 々な意味で用いられることがあり、気道症状だけでなく、 急性(あるいは時に亜急性)の発熱や倦怠感、種々の体調 不良を「風邪」と認識する患者が少なくないことが報告さ れている。
患者が「風邪をひいた」といって受診する場合、その病態 が急性気道感染症を指しているのかを区別することが 鑑別診断のためには重要である。

Ⅰ-1 感冒

発熱の有無は問わず、鼻症状(鼻汁、鼻閉)、咽頭症状 (咽頭痛)、下気道症状(咳、痰)の3系統の症状が「同時 に」、「同程度」存在する病態

感冒に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する

Ⅰ-2 急性鼻副鼻腔炎

発熱の有無を問わず、くしゃみ、鼻汁、鼻閉を主症状とする急性気道感染症

【成人における基本】

  • 軽症(*1)の急性鼻副鼻腔炎に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する。
  • 中等症又は重症(*1)の急性鼻副鼻腔炎に対してのみ、以下の抗菌薬投与を検討することを推奨する。

アモキシシリン内服5~7日間

【学童期以降の小児における基本】

  • 急性鼻副鼻腔炎に対しては、遷延性又は重症の場合(*2)を除き、抗菌薬投与を行わないことを推奨する。
  • 遷延性又は重症の場合(*2)には、抗菌薬投与を検討することを推奨する。

アモキシシリン内服5~7日間

*1 急性鼻副鼻腔炎の重症度分類

なし 軽症/少量 中等量以上
臨床症状 鼻漏 0 1 2
顔面痛・前頭部痛 0 1 2
鼻腔所見 鼻汁・後鼻漏 0
漿液性
2
粘膿性少量
4
粘液性中等量以上

軽症:1~3点、中等症:4~6点、重症:7~8点

*2 小児の急性鼻副鼻腔炎に係る判定基準

以下のいずれかに当てはまる場合、遷延性又は重症と判定する。

  1. 10日間以上続く鼻汁・後鼻漏や日中の咳を認めるもの。
  2. 39℃以上の発熱と膿性鼻汁が少なくとも3日以上続き重症感のあるもの。
  3. 感冒に引き続き、1週間後に再度の発熱や日中の鼻汁・咳の増悪が見られるもの。

Ⅰ-3 急性咽頭炎

喉の痛みを主症状とする急性気道感染症

  • 迅速抗原検査又は培養検査でA群β溶血性連鎖球菌(GAS)が検出されていない急性咽頭炎には、抗菌薬投与を行わないことを推奨する。
  • 迅速抗原検査又は培養検査でGASが検出された急性咽頭炎に抗菌薬を投与する場合には、以下の抗菌薬投与を検討することを推奨する。

【成人・学童期以降の小児における基本】
アモキシシリン内服10日間

重要な鑑別疾患 (Red flag)

Ⅰ-4 急性気管支炎

発熱や痰の有無は問わず、咳を主症状とする急性気道感染症

  • 成人の急性気管支炎(百日咳を除く)に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する。

【肺炎の鑑別のために考慮する所見】
バイタルサインの異常(体温38℃以上、脈拍100回/分、呼吸数24回/分のいずれか1つ)または胸部聴診所見の異常

Ⅱ 急性下痢症とは

急性下痢症は、急性発症(発症から14日間以内)で、普段の排便回数よりも軟便または水様便が1日3回以上増 加している状態。「胃腸炎」や「腸炎」などとも呼ばれることがあり、中には嘔吐症状が際立ち、下痢の症状が目立たない場合もある。

Ⅰ 急性気道感染症

対象:基礎疾患のない生後3か月以降から小学校入学前の乳幼児

乳幼児における急性気道感染症は、訴えが不確かで あり、様々な症状が混在することから成人とは異なる分 類が必要である。ここでは年齢、症状、身体所見をあわ せて、感冒・鼻副鼻腔炎、咽頭炎、クループ症候群、気管 支炎、細気管支炎に分類する。多くは自然軽快するウイ ルス性疾患であるが、抗菌薬の適応となるGASによる 咽頭炎、細菌性副鼻腔炎、中耳炎を鑑別し、尿路感染症 や重症感染症を示唆する兆候(Red flag)の有無を見 極めることが重要となる。
保護者に病状と疾患の自然経過を説明し、再受診の目安 について情報提供を行う事が重要である。

Ⅰ-1 感冒・鼻副鼻腔炎

鼻汁、軽度の咳などを主症状とする上気道炎。小児では感冒と急性鼻副鼻腔炎の区別は困難である。抗菌薬は原則として必要はない。二次性細菌感染症への移行に注意する。

Ⅰ-2 急性咽頭炎

咽頭の発赤、腫脹、滲出物、潰瘍、水疱を伴う急性炎症であり、乳幼児では頭痛や嘔吐を伴う発熱などの非特異的症状でも咽頭炎を疑う。ウイルスと治療が可能なA群β溶血性連鎖球菌(GAS)咽頭炎の鑑別が重要である。

重要な鑑別疾患 (Red flag)

急激な全身状態の悪化、喘鳴、姿勢の異常(sniffing position や tripod position)
→急性喉頭蓋炎、頸部膿瘍、扁桃周囲膿瘍などの急性上気道閉塞性疾患を考慮し、安全に気道確保できる施設への転送を速やかに決断する。

Ⅰ-3 クループ症候群

急性ウイルス感染症による喉頭の炎症によっておこる疾患で、特徴的な甲高い咳(犬吠様咳嗽:barkingcough)や吸気性喘鳴を呈する。鼻汁、咳、発熱などの症状が12~48時間前に先行することが多い。嗄声も多く、進行すると安静時にも吸気性喘鳴を聴取する。主要な病原体はパラインフルエンザを主体としたウイルスであり、秋から冬にかけて多い。

重要な鑑別疾患 (Red flag)

多呼吸、起坐呼吸、陥没呼吸、酸素飽和度の低下、姿勢の異常(sniffing positionやtripod position)
→急性喉頭蓋炎の他、細菌性気管炎、喉頭異物、アレルギー性喉頭浮腫など切迫する上気道閉塞をきたす疾患を疑い、気道確保を優先する。

Ⅰ-4 急性気管支炎

咳を主症状とする下気道の炎症であり、発熱や痰の有無は問わない。明確な診断基準はなく、急性気道感染症のうち咳嗽を中心とした下気道症状やラ音などの所見があり、呼吸状態や画像所見から肺炎が除外されたものをいうことが多い。ほとんどはウイルス性であるが、マイコプラズマ、クラミジア、百日咳菌に注意が必要。

重要な鑑別疾患 (Red flag)

発熱の持続、呼吸障害
→肺炎、膿胸、気管支喘息発作、気道異物などの鑑別が必要であり、バイタルサインや理学所見に応じて検査を追加する。

Ⅰ-5 急性細気管支炎

ウイルスによる下気道感染症で、細気管支上皮の炎症と浮腫や粘液産生による閉塞性病変を特徴とし、呼吸障害をきたす。2歳未満の小児において鼻汁、鼻閉などの上気道炎症状に続いて、下気道感染を伴い咳、呼気性喘鳴・努力呼吸を呈する状態で発熱の有無は問わない。原因微生物としてRSウイルスが重症化しやすく、最も重要である。

*乳幼児のRSウイルス感染症
乳幼児では鼻汁、咳を初発症状として、感染後3~6日頃 に喘鳴を特徴とする症状の悪化を認めることが多い。特に 新生児、乳児期早期、未熟児、先天性心疾患、慢性肺疾患、 免疫不全症では呼吸障害が強く入院を要することが多い。 多呼吸、努力呼吸、低酸素血症などがあれば二次医療機関 への紹介を検討する。

重要な鑑別疾患 (Red flag)

肺炎、気管支喘息、気道異物の他に、乳幼児において呼吸障害 をきたす多種多様な疾患が該当する。新生児期発症のRSウイ ルス感染症は入院を考慮すべき。

Ⅰ-6 急性中耳炎

急性に発症した中耳の感染症で耳痛、発熱、耳漏を伴うこ とがある。診断には鼓膜所見が重要。軽症例の4分の3以上 は1週間で自然治癒する。

重要な鑑別疾患 (Red flag)

所見 検討事項および鑑別すべき疾患
抗菌薬を投与せず経過観察して2~3日で局所・全身所見ともに改善しない 中耳炎として抗菌薬の投与を検討する他の感染巣の有無を見極め、診断を再検討する
抗菌薬治療を開始して2~3日で局所・全身所見ともに改善しない 他の感染巣の有無を見極め、診断を再検討する外科的ドレナージ(鼓膜切開)の適応を見極める耐性菌を意識した抗菌薬の変更を検討する
耳介後部の発赤・腫脹と圧痛、耳介聳立 乳様突起炎
項部硬直、意識障害、けいれん
‟not doing well”
髄膜炎
下顎角周囲の腫脹、疼痛、唾液腺開口部の発赤 化膿性唾液腺炎、流行性耳下腺炎

Ⅱ 急性下痢症

便性と便量の異常が認められる。 多くは嘔吐が下痢に先 行するが、下痢のみの場合や、特に年少児では嘔吐のみの 場合もある。腹痛・発熱を伴うことがある。感染性の要因と してはウイルス性が大半である。原因診断より重症度の判 断が重要。

*経口補水について
できるだけ早期に(脱水症状出現から3~4時間以内)、少 量(ティースプーン1杯程度)から徐々に増量しつつ、脱水 量と同量(軽症から中等症脱水ならば50~100ml/kg) を3~4時間で補正することが重要。

重要な鑑別疾患 (Red flag)

所見 疾患
急性腹症を示唆する症状・徴候を認める 腸重積、虫垂炎、精巣捻転、絞扼性イレウスなど
頭蓋内圧亢進症を示唆する症状・徴候を認める 髄膜炎、頭蓋内出血
その他 敗血症((トキシックショック症候群含む)
糖尿病性ケトアシドーシス、尿路感染症

Ⅲ 小児において気をつけるべき薬剤について

急性気道感染症に関連する薬剤のうち、小児特有の副作用が懸念される薬剤がある。

所見 懸念事項
ST合剤 低出生体重児、新生児には禁忌(核黄疸)
セフトリアキソン 高ビリルビン血症のある早産児・新生児に禁忌(核黄疸)
マクロライド系抗菌薬 新生児の内服で肥厚性幽門狭窄症のリスク
テトラサイクリン系抗菌薬 8歳未満で歯牙着色のリスク
ピボキシル基を有する抗菌薬 低カルニチン血症に伴う低血糖症・痙攣・脳症
フルオロキノロン系抗菌薬 一部薬剤は小児には投与禁忌 (関節障害の懸念)
アスピリンが含まれる解熱鎮痛剤・総合感冒薬 インフルエンザ・水痘罹患時の急性脳症発症に関連
抗ヒスタミン薬 熱性けいれん、急性脳症発症との関連
ジヒドロコデイン 呼吸抑制
テオフィリン製剤 急性脳症発症との関連
ロペラミド 6か月未満は禁忌、2歳未満は原則禁忌(腸閉塞の危険)

*患者・家族への説明

肯定的な説明を行うことが患者の満足度を損なわずに抗菌薬処方を減らし、良好な医師ー患者関係の維持・確立にもつながる。

【患者への説明で重要な要素】

1) 情報の収集

2) 適切な情報の提供

3) まとめ


入院患者の感染症に対する基本的な考え方

入院患者の感染症で問題となる微生物の診断・治療等について「抗微生物薬適正使用の手引き第三版」別冊をご参考ください

1 診断・治療のプロセス

参照:本編p106-p109

ⅰ) 入院患者の発熱へのアプローチ

ⅱ) 適切な培養の実施

ⅲ) 経験的(エンピリック)治療

参照:本編p110-p117

ⅴ) 抗菌薬選択の適正化

ⅵ) 感染症の治療期

参照 本編p117-p120

2 マネジメント

参照 本編p124-p125

ⅱ) 抗菌薬の経静脈投与と経口投与

バイオアベイラビリティが良好な経口抗菌薬の例

抗菌薬
ペニシリン系 アモキシシリン
クラブラン酸/アモキシシリン
セファロスポリン系 セファレキシン
フルオロキノロン系 シプロフロキサシン
レボフロキサシン
モキシフロキサシン
テトラサイクリン系 ドキシサイクリン
ミノサイクリン
リンコマイシン系 クリンダマイシン
ニトロイミダゾール系 メトロニダゾール
オキサゾリジノン系 リネゾリド
ST合剤 スルファメトキサゾール/トリメトプリム
抗真菌薬
アゾール系 フルコナゾール
ボリコナゾール(TDM推奨)

※ クラブラン酸のバイオアベイラビリティは60%を切る場合もある

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