列島縦断AMR対策 事例紹介シリーズ ~地域での取り組みを日本中に“拡散”しよう!~

秋田県全体で情報や経験を共有しながら感染対策を推進

第2回AMR対策普及啓発活動 国民啓発会議議長賞
2020年1月
秋田県感染対策協議会
https://akitaicpc.wixsite.com/akitaicpc

 このコーナーでは、薬剤耐性(AMR)対策の優良事例として内閣官房の「AMR対策普及啓発活動表彰」を受賞した活動をご紹介しています。第9回で取り上げるのは、「地域包括ケア時代の薬剤耐性対策基盤の形成と35年間の活動」で国民啓発会議議長賞を受賞した、秋田県感染対策協議会の取り組みです。同協議会は1983年の発足以来、30年以上にわたって地域ネットワークを構築し、感染対策に取り組んできました。これまでのあゆみや活動の実際などについて、事務局が置かれている秋田大学の植木重治先生およびスタッフの皆様に、お話を伺いました。

「第2回薬剤耐性(AMR)対策普及啓発活動表彰」における優良事例の表彰決定及び表彰式の実施について
植木 重治氏
植木(うえき) 重治( しげはる)
秋田大学大学院医学系研究科総合診療・検査診断学講座准教授、
同医学部附属病院総合診療部・中央検査部
略歴 1999年秋田大学医学部卒業、2003年同大学医学研究科博士課程修了。同大学附属病院、帝京大学附属病院、米国留学などを経て、2014年から現職。

秋田県全体で感染対策向上をはかる

「滅菌」から始まった感染対策の取り組み

同協議会は1983年発足と聞いています。感染対策、それも地域で連携しながらの取り組みとしてはかなり早い時期だと思いますが、どのような経緯があったのでしょうか。

植木氏 もともとは「滅菌をしっかりやろう」というコンセプトのもと、当院の薬剤部長らが中心となって、12病院で秋田県滅菌研究会を立ち上げたのが最初です。当時は耐性菌の出現や院内感染が社会的な問題になっていましたが、日本環境感染学会ができたのは3年後の1986年ですし、もちろん感染制御部もない時代でした。その意味で、先見の明はあったと思います。
 会では当初から、「医療施設の協力体制の構築」や「院内感染防止対策の科学的な探求」を念頭に活動していましたが、「滅菌」という名称だとイメージが限られてしまいます。そのため1990年に秋田県院内感染対策協議会と改称し、さらに医療機関の感染対策に県全体で取り組もうということから、2010年に院内を外した現在の名称になりました。当協議会では、主な目的として「情報共有や連携・協力を強化し、県内全体の感染対策向上に努める」ことを掲げています。このように、名称も目的も時代に沿って少しずつ変えながら、会として育ってきました。

協議会のあゆみ
1983年 秋田県滅菌研究会 発足
1990年 秋田県院内感染対策協議会に名称変更
2010年 秋田県感染対策協議会に名称変更
現在に至る

もともと地域で連携していこうという意識は高かったのでしょうか。

嵯峨 知生 氏
嵯峨(さが) 知生( ともお)
秋田大学大学院医学系研究科総合診療・検査診断学講座講師
同医学部附属病院感染制御部副部長

嵯峨氏 秋田県は医療資源が限られているぶん、以前から各職種で横のつながりはありました。地域的に垣根が低いというか、「やるぞ」となった時にはまとまりやすい土地柄かもしれません。

植木氏 大都市圏で地域全体をまとめようとしても難しいかもしれませんが、人材の限られた地方の場合、「まとまらないとどうしようもない」というところがあります。「何とかしなくては」と思う意識の高い人間が「皆でやろう」と声をかけ、それに周りが賛同して、という流れで、ここまで会が続いてきたのだと思います。

秋田県においても、感染制御の重要性は増してきたと感じていますか。

植木氏 そうですね、県全体としてもニーズが高くなったと思います。実は当院では、2004年にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)とVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)の大きなアウトブレイクがありました。その際は、外部から識者を入れて評価を受け、記者会見も開きました。現在では国公立大学病院でアウトブレイクが起こった場合、国公立大学附属病院感染対策協議会がチームを派遣し、評価・提言を行う仕組みができており、大学病院同士横のつながりもあります。しかし当時としては、アウトブレイクを公表して外部の検証を受け、記者会見を開くというのは非常に珍しく、その先駆けになったと聞いています。アウトブレイクが大学病院でも、秋田でも起こるんだというインパクトを与える出来事になりました。

病院だけでなく介護保険施設も参画

現在の会の構成を教えてください。

植木氏 2019年7月現在、52病院・20介護保険施設・1診療所・16事業社が会員になっています。これは大まかにいって、県内の病院の75%、介護保険施設の30%に相当します。また関連団体として、秋田県薬剤師感染制御研究会(APICS)、秋田感染管理認定看護師(CNIC)ネットワーク、秋田県技師会臨床微生物部門とも連携しています。
 当協議会は会員である各施設からの会費によって運営され、自前の組織として設立当初から独自の活動を行っています。事務局は代々会長の所属する施設に置かれ、2018年に当院大学院総合診療・検査診断学講座の廣川誠教授が会長となったのにともない、当講座が事務局となりました。

関連団体とのネットワーク
関連団体とのネットワーク

会の名称や会長・事務局が変わったことで、実際に会のあり方も変わりましたか。

植木氏 2010年に現在の名称に変わったあたりから、基本は踏襲しつつ「より顔の見える関係を」ということで、病院だけでなく介護保険施設にも「一緒にやりましょう」と呼びかけて、会に参加してもらうようになりました。

嵯峨氏 ちょうど2010年度診療報酬改定で感染防止対策加算が新設され、介護保険施設も含め地域で感染対策を底上げしていく必要があるのではないかと言われていた時期です。会の名称が変わっただけでなく、たくさんの介護保険施設が会員になってくれたことで、初めて病院という意味での「院内」が取れた気がします。

植木氏 当院が事務局を引き継いだ際は、会を象徴するアイコンも必要と考え、ロゴマークを作りました。なまはげのマスクが外れかかっているところは感染制御としては「注意!」なところですが、愛嬌に免じてご容赦ください。

職種・団体の垣根を越えたネットワークづくり

年2回の役員会・研修会で事例や取り組みを共有

協議会の主な活動について教えてください。

植木氏 メインの活動は年2回の研修会です。設立以来6月と11月に欠かさず開催し、2019年11月で第73回になりました。研修会では県内の病院・介護保険施設などにおける事例や取り組みの報告、保健所や企業による講演などに加え、各分野の第一人者を招いて特別講演も行っています。研修会の内容は毎回冊子にまとめて参加者に配布するほか、ホームページでも一部情報公開を行っています。研修会の対象は県内の感染管理に携わるすべての方で、毎回100~200名程度の参加があります。

第73回研修会のポスター
第73回研修会のポスター

研修会のテーマや内容はどのように決めているのですか。

加賀谷 英彰氏
加賀谷(かがや) 英彰( ひであき)
秋田大学医学部附属病院薬剤部副薬剤部長

植木氏 研修会当日に開催している役員会で話し合い、最終的に事務局の方で決めています。最近では関連団体である各職種グループにテーマを割り振って、プログラムを組んでもらうといったこともしています。例えば第72回では、APICSや秋田県技師会臨床微生物部門、秋田CNICネットワークと合同企画を組みました。

加賀谷氏 役員会で「そろそろインフルエンザの季節だね」という話題が出て、そこから「じゃあスペシャリストの先生を呼んで話してもらおう」となったこともあります。

参加者が毎回100~200名というのはかなり多いですね。

佐藤 智子氏
佐藤(さとう) 智子( ともこ)
秋田大学医学系研究科、同医学部附属病院看護部

植木氏 1つには、役員会の人数が多いということがあると思います。基本的に役員は会員施設それぞれで職種ごとに任命しており、現在約30施設・120名の役員がいます。この方式は以前からで、最初にそういう役割付けをして活動に巻き込んでいった、ということのようです。

佐藤氏 各職種から役員が1名選ばれるので、今の役員から次の役員へすんなり引き継がれていくという流れが、施設でも役員会でも自然に続いているのだと思います。

事務局は「ハブ」であれ

役員会では他にどのようなことを行っているのですか。

植木氏 以前は役員会というと、各施設が抱えている問題や悩みを話し合う場になっていたと聞いていますが、現在は運営に関わる話し合いが主です。

嵯峨氏 新しい試みとしては、2018年に役員を対象に、当院に設置された第一種感染症病棟の見学会を行いました。これはエボラ出血熱など、非常に危険で感染性が高い一類感染症の患者さんを診るための独立病棟(高度感染症ユニット棟)です。当院は秋田県で唯一、第一種感染症指定医療機関に指定されていますが、こうした専用病棟をきちんと利用していくためにはまわりの理解も必要です。実際に患者さんを受け入れた場合、30名近いスタッフを投入し、県も保健所も警察も巻き込んで診療体制を作るといったことは、なかなか想像がつかないと思います。役員会は県内の中核となる病院がすべて含まれている組織で、見学会ではキーになる先生方に実際の現場を見ていただくことができました。厳重な対策が必要で細かいルールがあること、いざという時のために準備を整えていることを理解し共有してもらう、よい機会になったと考えています。

役員会では他にどのようなことを行っているのですか。

植木氏 事務局を引き継ぐにあたってイメージしたのは、「ハブ(hub=拠点、中核、中継点などの意)になる」ということです。秋田県では薬剤師ならAPICS、看護師なら秋田CNICネットワークというように、すでに各職種がさまざまな興味をもって多くの勉強会を行っています。医師も含めそれぞれが多様な活動をする中で、具体的に「何をしているのか」「今どうなっているのか」がお互い見えていないと、何かあった時に誰に頼めばいいのかわかりません。事務局はハブとして、こうした活動や取り組みを見える形にしていく、県の中で共有できるようにしていく役割があると考えています。

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