静岡県立こども病院 Shizuoka Antimicrobial Team(SAT)
第1回 AMR対策普及啓発活動「薬剤耐性へらそう!」応援大使賞受賞静岡AMR制御チーム「AAS」の始動
ICT地域連携加算で顔馴染みのメンバーが、地域でのAMR対策に結束
AASとは、どのような組織でしょうか?
荘司氏 AASは、「Antibiotic Awareness, Shizuoka」の略称です。倉井華子先生(静岡県立静岡がんセンター感染症内科部長)が、「静岡でAMRを考える会を立ち上げましょう」と声を上げられたのが端緒で、現在、がんセンターや当院ばかりでなく、県内複数の病医院の医師・薬剤師・検査技師、それに静岡県庁の行政スタッフも加わり、総勢12名が関与しています。
もともとこのメンバーは、感染症防止対策地域連携加算の算定のための合同ミーティングでたびたび顔を合わせていた知り合い同士なのです。そういう声をかけやすい人たちにまず賛同していただき、2017年の春にスタートしました。発足からまだ1年足らずの新しい活動です。
具体的にはどのような活動をされているのですか?
荘司氏 AMR対策のアクションプランにも書かれているように、わが国で使用される抗菌薬の9割が外来で処方されていて、外来で処方されることが多い系統の抗菌薬を半分に減らそうという目標の達成は、実地医家の先生方の協力なしには不可能です。そこで我々のメンバーの中のドクター5人は、まず地域の医師会にアプローチすることから始めようということになりました。私は静岡県中部を担当することになりました。
と言っても先ほど申しましたように、私が静岡に移り住んできたのは2014年のことですからまだ3年もたっておらず、キーパーソンの先生もわからず伝手もありません。そこで当時の院長に、小児科医が会長を務めている医師会はどこかを教えていただき、そこへ企画書を提出し「適正使用を一緒に進めてください。味方になってください」と、押しかけるようなかたちで講演をさせていただいたのです。
SATの受賞でAAS活動にも弾みが
医師会の先生方の反応はいかがですか?
荘司氏 静岡は小児科医が少なく、内科医が子どもたちを診てくださっているケースも多いようですので、小児の熱の対処法など、ニーズのありそうな情報を織り交ぜながら話すようにしています。AMR対策については、当院で耐性菌の被害にあった子どもたちの症例を紹介しながら、厚労省が策定した『抗微生物薬適正使用の手引き』ダウンロード ▶を解説しています。
医師会の先生方も「抗菌薬をちょっと使い過ぎだよね」と皆さんお考えのようで、「必要だとはわかっていたけど、どうすればよいのかわからずにいた」とおっしゃっていただくこともあり、お役に立てていると感じています。
そしてなにより、SATで内閣官房の賞をいただいたことが大きな力になっています。静岡ではかなり大きなニュースとして取り上げられましたので、県内の小児科医会などに参加しているドクターは皆さん、我々の活動を知っていただいているようです。AASで医師会の先生方に協力いただくときにも、受賞の話題が大きな足掛かりになり非常に助かっています。
講演会はどのくらいの頻度で行われているのですか?
荘司氏 講演は月に平均2回ぐらいです。講演の他には、静岡市静岡医師会発行の『通報』に、AASのメンバーがAMR対策に関する記事を書かせていただいています。また、薬剤師のメンバーはNDB※データで県内の外来抗菌薬使用量を可視化したり、薬剤師会で勉強会を積極的に開催しています。メディア担当は地元の新聞に記事を載せてもらうなど、それぞれ活躍しています。市民啓発のため、私が薬剤師会調剤薬局に出向いて行き待合スペースでのアピールをすることもあります。
※NDB(National Database):医療機関が発行するレセプト(診療報酬明細書)と特定健診・保健指導の結果からなるデータベース
さらに、メンバーに一人だけ入っている検査技師は、地域の医療機関から検体を集めさせてもらい耐性菌の動向のモニターを始めています。いずれは県のWebサイトを利用してその情報を実地医家の先生方に提供し、抗菌薬選択の一助にしてもらえるようなシステムを作りたいと考えています。
静岡市全域でも、抗菌薬の処方に変化が現れ始めている
AAS活動を本格的に始められて1年足らずとのことですので、目に見える効果はまだこれからといったところでしょうか?
荘司氏 ところがもう効果が現れ始めているのです。
医師会運営の『薬局サーベイランス』で静岡市をみると、8月からペニシリンが上がってきて、セフェムとマクロライドがやや下がってきているのです。この時期、風邪が増えて通常であればこの二つの処方が増える時期なのですが。つまり今までは第三世代セフェムやマクロライドが圧倒的だったのが、少しずつペニシリンにスイッチしてきているのです。まだ「抗菌薬を処方しない」というところまではいっていないようですが、処方するのであればペニシリンにしてみようかと移行が進んでいる段階にあるのだと思います。
このデータは静岡市の15~20%程度の薬局のみをカバーしているものですので全体を反映しているとは限りません。ただ、静岡市以外ではこういう変化がまだ起きていないようですので、静岡市内の医師会の先生方がアクションを起こしてくださっているのだと考えています。
それは心強いですね。ところで、AAS活動の予算はどのように確保しているのでしょうか?
荘司氏 私自身が医師会の講演会をした時は、医師会のほうも無料では困るということですので、講演料をいただいています。ただそれ以外に、AASとしての予算はありません。活動はほぼ全てボランティアです。
今のところ情熱だけ?
荘司氏 そうなんです。お金も時間もありません。燃え尽きたらお終いなんです(笑)。
ただ、行政のスタッフもメンバーに入っていますし、「組織として何かできないか」と一緒に検討していただいているところですので、来年度以降に期待をしています。
それに、静岡県内でもまだ回り切れていない医師会が多く残っていますし、長期療養施設には全く介入できていません。課題は山積していて、燃え尽きてはいられません。
「孫たちを守らねば…」。地域を動かす、次世代のための医療
SATやAASでの経験を通して、荘司先生が院内や地域でのAMR対策にあたり特に強調されたい点やアドバイスをお聞かせください。
荘司氏 AMR対策は小児科医がリーダーシップをとったほうがよいと思います。
新しいことに取り組むにはものすごいパワーが必要で、それにいかにエンジンをかけるかというのは大変なことです。誰もがふだんの業務で手一杯ですから。しかし「子どもたちの未来」のためにというスローガンがあると、みんな頑張れるのです。
ある医師会の会長に講演の企画をご相談させていただいた際、「孫たちを守らねば」と二つ返事でご承諾いただいたことがあります。地域に密着しAMR対策の第一線を担っている先生方とも、この言葉で繋がっていけるのだと確信しています。
- 地域の専門家が協力してリーダーシップをとる
- 問題意識を共有する仲間を集め、増やし、発信
- 理解・協力を得やすいところから始める
(このインタビューは2017年11月16日に行いました)