1920年代にフレミングがペニシリンを発見し、1940年代に実用化されてから、今日までの約70年間に抗菌薬の研究開発が進み、数多くの抗菌薬が発売されてきました。これにより、それまで死因の上位を占めていた肺炎や結核などの感染症は、衛生環境の改善もあいまって激減しました。

　しかし、感染症治療のために抗菌薬が使われるようになると、細菌はなんとか生き延びる方法を考え、新たな耐性菌が生み出されます。さらに新しい抗菌薬が開発されると、それに耐性を持つ菌が生じる、といったことが繰り返され、画期的な抗菌薬を開発することは大変な難しさがあります。

　また、新しい薬剤の開発には莫大なコストと時間がかかります。その上、抗菌薬は、慢性疾患の治療薬と比べると投与期間が短く、使用される頻度が高くても、企業にとってはあまり利益を生まない薬剤となっています。そのため、多くの企業は抗菌薬の開発から撤退し、新しく承認される抗菌薬がほとんど出てこない状況に陥っています。

　菌の薬剤耐性化がすすむ一方、抗菌薬の開発が停滞すると、耐性菌による感染症にかかった場合に、治療が大変難しい状況になります。このような事態を避けるためには、企業とともに研究機関や政府・関係省庁が連携して新規抗菌薬の開発に取り組むとともに、抗菌薬を正しく使うことにより、現在使える抗菌薬を温存し、長く使えるようにすることが大切なのです。