学生による抗菌薬適正使用啓発キャラバン「Smile Future JAPAN」
第1回 AMR対策普及啓発活動 薬剤耐性対策推進国民啓発会議議長賞薬剤耐性(AMR)対策の優良事例として内閣官房の「AMR対策普及啓発活動表彰」を受賞した活動を中心にご紹介している本コーナー、二回目は「薬剤耐性対策推進国民啓発会議議長賞」を受賞した二つの事例から、学生による抗菌薬啓発キャラバン「Smile Future JAPAN」を取り上げます。この取り組みを立ち上げた高橋揚子氏(現在は亀田総合病院 初期研修医)に、学生の立場でAMR対策に関わることになった経緯、具体的な活動内容、卒業後に取り組んでいる活動などをお話しいただきました。
「第1回薬剤耐性(AMR)対策普及啓発活動表彰」における優良事例の表彰決定及び表彰式の実施について(内閣官房)
市民と医師の間にある立場を生かしたAMR対策
それぞれの学生の得意な方法、地域に適した手法で啓発活動を展開
今回受賞された抗菌薬啓発キャラバン「Smile Future JAPAN」とは、どのような活動をされているのでしょうか?
高橋氏 AMR対策の啓発活動を学生の立場で推進しています。
私が在学していた東北大の場合は、AMR対策の啓発イベントを2016年に仙台で行いました。仙台のほかにも東京では3つの大学の医学生が共同でAMR対策の啓発動画を作成し、全国1,000カ所の病院・クリニックに配信するとともに、Smile Future JAPANのサイトで公開しています。沖縄では琉球大の医学部生が、沖縄の方言を生かして注目されるように工夫した啓発ポスターを作成し、薬局や小児科医院に配布してAMR問題に取り組む活動を繰り広げています。
略 歴
2011年 東北大学医学部医学科入学。在学中の2013年にNeuroprotection Research Laboratory、Departments of Radiology and Neurology、Massachusetts General Hospital留学、2016年には Department of Child Neurology、Boston Children’s Hospital、Epilepsy Center、Cleveland Clinic Foundationに留学。2017年 東北大学医学部医学科卒業。同年から亀田総合病院 初期研修医。もちろん、これらの活動は単発ではなく毎年継続し行われています。またスタートこそ仙台と東京、沖縄という三拠点でしたが、我々の世代から後輩へと引き継がれ、今後は全国に広がっていくのではないかと期待しています。それぞれの地域で、それぞれの学生が、それぞれがもっている技術を生かしたかたちで活躍しています。
仙台での活動の様子を、少し詳しくお聞かせください。
高橋氏 「さよならばいきんだいさくせん」という子ども向けイベントを行いました。会場は東北大医学部キャンパス内の一室です。室内にいくつかのブースを設けて複数のプログラムを披露しました。
例えば、学生が劇を演じて、かぜの原因の多くはウイルスでそれには抗菌薬が効かないこと、むやみに抗菌薬を飲んでしまうと耐性菌という怖いばい菌が生まれてしまうことなどを、子どもにもわかるように表現しました。抗菌薬は細菌だけに効くことを伝えるためのもぐら叩きゲームを作り、子どもたちに遊んでもらったりもしました。
実は、企画に取り掛かった段階では子どもたち対象ではなく、保護者向けの講習会のようなものを考えていたのです。かぜをひいた子どもを連れて受診したお母さんが医師に「抗菌薬をください」と言うことが、AMR対策が進まない一因だと耳にしていたからです。しかし、そのような趣旨でイベントの告知をしてもあまり関心をもたれないだろうということに気づき、ターゲットを子どもに切り替えました。子どもたちが遊べるようなイベントなら、お父さんお母さんも一緒に参加し、結果的に伝えたいメッセージが伝えたい対象に届くことを狙ったのです。
この作戦が的中して、親子あわせて約100名もの方に来場していただきました。
仙台でのイベント風景(2016年11月)
学生たちによる子ども向け、約7分のショートプレイ『かぜひきくんを救え』の一幕。台本は高橋氏が作成
子ども向けのやさしい内容の講演会を通じて、同席している保護者に勉強してもらう
モグラ叩きゲーム。抗菌薬ハンマーで叩くと細菌は引っ込むがウイルスには効かない。すべて学生による手作り、手動
手応えはいかがでしたか?
高橋氏 アンケートによると、「大変満足」が6割、「満足」が4割で、「ふつう」や「不満」との回答はゼロでした。また「子どもが飽きてしまったり眠くならないか心配でしたが、全ブースを回ることができました」「ためになる話を聞けて大人も勉強になりました。子どもたちも医学や薬学に興味をもったと思います」「学生さんがこのようなイベントを開催していることに感銘を受けました」などの声も寄せられました。
肝心のAMR対策の啓発という本来の目的についても、イベント参加前に「かぜに抗菌薬が効かない」ことを知っていたのは4割強にとどまっていたものが、イベント参加後には「かぜで抗菌薬を飲みたいと思うか」との質問に96%が「全く思わない」で占めるなど、一定の効果がありました。
子どもたちの理解力・記憶力のすばらしさにも驚かされました。このイベントの後に病院で臨床実習に参加した際、「ウイルスだからお薬いらない」とか「お薬は飲み切る」とか言う子どもがいたのです。保護者向けに伝えたかったことを子どもたち自身も理解できていたようで、「何だか子どもたちってすごいな」と思いました。
アンケートの結果
- こどもにもわかりやすく、これからは自分でも手洗いなど気を付けてくれると思います!
- こどもと一緒に楽しんで勉強できました。また参加したいです。
- とても温かみのある素敵なイベントでした!!
- 劇がこどもにもわかりやすくてとても良かったです。ウイルスによる病気、細菌による病気、それぞれ代表的なものを教えてくださるとなおよかったです!!!