列島縦断AMR対策 事例紹介シリーズ ~地域での取り組みを日本中に“拡散”しよう!~

多職種協働を目指した、13年間のAMR対策普及活動

第2回 AMR対策普及啓発活動 厚生労働大臣賞
2019年2月

受け継がれる、EBIC研究会の思い

2020年に解散、啓発活動は他団体へ

EBIC研究会の今後について教えてください。

佐竹氏佐竹氏 実は特定非営利活動法人EBIC研究会は、2018年度で主催事業の活動を終了し、2019年度は他団体に活動を引き継ぎ、2020年7月に解散予定です。EBICワークショップは、林先生とEBICの下部組織であるWHONET club 運営委員の方たちが、セミナーは東京都立小児総合医療センターの堀越裕歩先生をはじめ数名の先生方が受け継いでくれる予定です。しかし、WHONETの講習を引き継いでくれる団体がまだ見つかっていません。2019年度はこの後継団体を探していきたいです。

残念に思うことは、1997年に開始した抗菌薬感受性検査精度管理調査を2006年にやめざるを得なかったことです。それはWHOとCDCが共同で行っていたのですが、予算の都合で終了となりました。しかし、第三者に評価してもらうことは必要だと思います。医療機能評価機構でも感染管理に取り組むようになってきましたし、今後も良い方向にいってくれるといいなと思います。後継団体によるセミナーやワークショップに参加を希望される方、ご興味をお持ちの方は、ぜひ、EBICにWEB登録をしてください。今後の活動が決まり次第、メールとホームページでお知らせいたします。

◆10年遅れていた感染管理が欧米にキャッチアップ

EBICとなってからの13年で感染管理の状況はどのように変わってきたと感じていますか?

金子氏金子氏 入院患者さんから外来の患者さんに耐性菌の問題が移ってきているような気がします。基幹病院に来たときにはすでに耐性菌を持っているケースが増えてきているように感じます。

林氏林氏 私はまだ10年ほどのキャリアなので、10年間の変化でいうと例えば古典的な耐性菌、緑膿菌とかMRSAのようなものは減ってきている印象があります。代わりに大腸菌ですとか、変わった耐性菌が増えてきていると感じます。その原因としては、緑膿菌、MRSAなどは病院の環境が汚れていたことが原因だと思うのですが、そこが解消されてきて、大腸菌など人の腸の中の菌が耐性化してきている、そのことによって病院の中だけの問題ではなくて、クリニックの患者さんの耐性菌も明確な問題となってきていると考えます。

金子氏 EBICセミナーの参加者に開業医の先生が増えてきていますし、調剤薬局の薬剤師さんも参加しています。地域の医療者、全員で取り組む必要があります。

これまでの活動の成果について、どのように感じていますか?

金子氏 グラム染色がメジャーになったと感じています。臨床検査技師もグラム染色に興味を持ってやってくれているので、レベルが高くなりました。1枚のスライドで多くのことを読み取れるようになってきたと思います。

佐竹氏 人材が育ちました。最初の頃にセミナーに参加された方がそれぞれの地域の感染管理のリーダーになっています。感染症に興味を持つ若いドクターが増えてきました。EBICで講師をお願いした米国感染症専門医である感染症コンサルタントの青木眞先生みたいになりたいという声も聞きます。皆さんに良いモデルをお示しできたと思っています。活動を始めた当時は欧米から10年近く遅れていたように思いますが、短期間でレベルアップが図れ、キャッチアップできたと思います。われわれの研究会だけでなく、日本中でいろいろな活動があっての成果だと思います。

横澤氏横澤氏 2017年に第1回AMR対策普及啓発活動厚生労働大臣賞を受賞されたまえだ耳鼻咽喉科のスタッフとは実はEBICで知り合いました。その方は薬剤師であり臨床検査技師なのですが、今でも交流があります。たくさんの方々との職種を超えたつなりが私にとって、大きな成果でした。

吉田氏吉田氏 私は2009年に前橋赤十字病院の細菌検査室に配属になり、EBIC研究会副理事長の金子先生の下で働くことになりました。微生物検査をしながら、WHONETを使ったデータ解析から感染管理につなげることを学びました。細菌検査は検査結果を正しく出すのは当然ですが、その結果を正しく読み取ることや、グラム染色を正しく活用することが大切だと分かりました。検査室には薬剤師さんが実習に来てくれたり、耳鼻科の医師がグラム染色を見に来てくれたり、感染症への興味が広がってきた感じを持っています。施設によっては、微生物検査室があるところとないところがあります。そこに差がなくなるようにレベルアップに尽力していきたいと考えています。

林氏 耐性菌は見えません。これを見えるようにするのが今後の私の役目だと思っています。アメリカのアンケートで患者さんが病院を選ぶ際に最も重視していることは、その病院を受診したときに感染するかどうかでした。つまり、格付けや口コミよりもその病院へ入院したときの感染率のデータを一番に参考にするという結果でした。おそらく日本もまもなくそういう時代になると思われますが、現状ではそのようなデータを出している病院はありません。まして抗菌薬を適正に使用しているかどうか、グラム染色をやっているかどうか、抗菌薬感受性検査の外部精度管理を行っているかどうかはすべて見えない状況です。これは大きな問題だと思います。また、例えばグラム染色を医療機関で行えるようにすることは使命ですし、患者さん側に立てば、病院を選ぶ際に院内感染率を見るとか、やたらと抗菌薬を欲しがるのはやめたほうがいいとか、そういうことの啓発活動もやっていきたいと考えています。

金子氏 開業医さんは不要な抗菌薬を使わない方向になってきているのを感じていますが、まだまだ患者さんはそれを求めている現状があるように私も思います。これからは医療者だけでなく、患者さんも納得した上で必要のないケースでは、抗菌薬を使わないという選択ができたらいいと思います。患者さんにも理解していただかないと、抗菌薬の適正使用にはならないと思っています。

佐竹氏 感染管理の活動は多職種で、そして患者さんも一緒になって取り組んでいかないとできないのだということですね。そういう活動が日本中に広まるように後継団体が活動してほしいと願っています。

グラム染色の様子

「グラム染色は抗菌薬の決定や治療効果の判定に大いに役立つ。顕微鏡があれば、5分程度で行える簡便な検査なので、ぜひ活用してほしい」と林先生。

グラム染色の様子


①検体を塗抹しスライドグラスを準備 ②前染色(クリスタルバイオレット)・水洗・媒染(ルゴール液)・水洗・脱色(エタノール)・水洗・後染色(サフラニン)・水洗・乾燥 →③顕微鏡検査

患者さんのハッピーのために

受賞に際してどのように思われましたか?

佐竹先生

佐竹氏 誤解を招きそうな言い方になりますが、受賞すると決めていました。応募にあたっては、スタッフの方々にもいろいろなデータを出してもらうなど、ご協力をいただきました。書類が完成して応募したときには、スタッフのねぎらい会ではなく、「受賞の前祝」を行いました。みんな笑っていましたけどね。やはり、長年、優秀なスタッフの皆さんに支えられ、みんなで感染管理の実践を目指して力を尽くしてきましたので、われわれの活動には自信があります。だからこそ、それがきちんと認められた受賞は本当に心から嬉しかったです。受賞後にももちろんお祝い会をしました。
これまで大学での教育と研究のほかにEBICの活動を行ってきました。ときにはEBICの活動を負担に思うこともありましたが、自分が目指している未来にどんな素晴らしいことがあるか、患者さんがどんなにハッピーになるかを思い描くことで、これはやっていかなくてはならないと活動を続けてきました。今後の後継団体の活動にも大いに期待しています。
(写真:理事長の佐竹先生。第2回AMR対策普及啓発活動厚生労働大臣賞を獲得した、ポスターとともに。)

EBICグラム染色webクイズの回答
Streptococcus pneumoniae
正解率 84%( 134名/159名)

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