列島縦断AMR対策 事例紹介シリーズ ~地域での取り組みを日本中に“拡散”しよう!~

秋田県全体で情報や経験を共有しながら感染対策を推進

第2回AMR対策普及啓発活動 国民啓発会議議長賞
2020年1月

AMR対策や医療従事者の技術向上にも取り組む

国内初の細菌検査データベース・サーベイランスシステムを構築

協議会の取り組みの1つに、細菌検査データ共有システムがあると聞きました。

植木氏 県内の細菌検査情報をリアルタイムに把握できるシステムで、Akita-ReNICS(地域内感染症情報モニタリングネットワーク)とよばれています。インターネットを介して参加施設から集まった細菌検査情報は、当院のコンピュータにより自動的にデータベース化され、各施設は必要な情報を好きな時に見ることができます。従来であれば各自がデータを持ち寄り、それを手作業で解析しなければなりませんでしたが、本システムを使えば目的の菌種や抗菌薬に関するデータ、また他施設の状況などを、いつでも簡単に入手することができます。イメージとしては、個々の病院ではなく県全体を1つの病院・病棟ととらえ、今どこで何の病原体が出現しているか、皆が共有できるようにしたシステム、といったところでしょうか。
 もともと協議会とは別に、2010年に当院で構築されたシステムですが、協議会にも運営に協力してもらったことで、2015年には参加施設が30以上、登録検体は50万件を超えるまでになりました。他県でも同様の取り組みをしているところはありますが、国内ではAkita-ReNICSがさきがけです。

地域内感染症情報モニタリングネットワーク
Akita-ReNICS
地域内感染症情報モニタリングネットワーク

具体的にどのような活用例がありますか。

植木氏 ある施設で検出された細菌に対し、抗菌薬がどれぐらい効きやすいか(感性)・効きにくいか(耐性)、その割合を一覧で示したものをアンチバイオグラムといいますが、施設によってアンチバイオグラムはかなり違います。同じ抗菌薬でもA病院では100%効く一方、B病院では半分くらいしか効かない、といったことがあり、アンチバイオグラムは当該細菌に有効な抗菌薬を選ぶための指標となります。その指標を各施設が自力で出そうとすると大変な労力がかかりますが、Akita-ReNICSであれば自施設を選択するだけで結果がすぐわかり、治療にも反映できます。

佐藤氏 検出菌の内訳も、地域や施設によって若干違います。細菌検察室のある施設は院内のアンチバイオグラムを作成していますが、Akita-ReNICSを見れば県全体ではどうなのか、簡単に比較できます。

植木氏 集まったデータを連携施設と共有して比較検討や研究を行ったり、菌の感受性からその施設における抗菌薬の使われ方を読み取ることもできます。
 他方、こうしたデータベースはシステムやサーバーの維持・更新に人手や費用がかかります。現在、Akita-ReNICSは限定運用となっていますが、2019年に国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンターによるJ-SIPHE(感染対策連携共通プラットフォーム)が全国的に稼働し、今度は国がその役割を担う流れができました。これからは徐々にJ-SIPHEに移行していく予定です。

実際に染めることでわかるグラム染色の重要性

2014年からグラム染色講習会も開催しているそうですね。

植木氏 前橋赤十字病院総合・感染症内科の林俊誠先生が特別講師、県内の臨床検査技師らがインストラクターを務め、実際にグラム染色を行える講習会を、年に1回開催しています(図6)。できるだけ多くの方に経験してもらえるよう、研修医を含むすべての職種が対象で、学生も参加できます。講習は呼吸器・胆嚢・血液など各種検体を染色するコーナーに分かれ、毎回およそ30名の参加者がローテーションを組んで、10人以上の指導者の下で検体を染め(染色)顕微鏡を覗く(鏡検)という実習に取り組みます。感染対策においてグラム染色は重要ですが、実際にやる人・できる機会は多くありません。研修会はその入口を作る・種を蒔き続けるという点で、意義があると考えています。

図6 グラム染色研修会の様子
図6 グラム染色研修会の様子
髙橋 智映氏
髙橋(たかはし) 智映( ともえ)
秋田大学医学部、同医学部附属病院中央検査部

髙橋氏 臨床検査技師の立場から言うと、グラム染色を有意義に利用するためには、最初にそれに適した検体を採取する必要があります。講習会では各自で標本を作成し染色・鏡検するという実習もあり、よい検体を採取する大切さ、グラム染色はまずそこから始まるということも、学べると思います。

植木氏 細菌検査技師の方の業務の理解、専門性の理解という、他職種に対するリスペクトが生まれる機会にもなっていると感じます。実際に体験するというのは大事なことだと思います。

情報共有や連携強化で一人ひとりの意識を上げる

協議会の活動を続けてきて、感染防御という点で手ごたえは感じていますか。

植木氏 感染を拡げないためには、一人ひとりの意識を上げていく必要があります。それは例えば手洗いだったり消毒だったりするわけですが、では皆に手を洗ってもらうためにはどうしたらいいか、どの施設でも腐心しているところです。年2回の研修会では、「うちの施設では消毒薬を1人1個持ちにして、常に使うようにしています」といった取り組みも発表され、皆に共有されます。そしてここで「ああ、いいね」となった話は、県内にも広がっていきます。また県内で小さなアウトブレイクはしばしばあり、研修会はそうした事例を持ち寄り共有する場にもなっています。研修会の存在は、感染防御においても重要な役割を果たしてきたと思います。

今後の課題や展望があれば教えてください。

皆さんの写真

植木氏 感染対策の歴史は、内科など他の領域に比べればまだ全然短いです。しかしここ20年をふり返っても、感染防御に対する意識や対応は大きく変わりました。最近ではAST(抗菌薬適正使用支援チーム)の取り組みが全国的に広がり、大学病院における抗菌薬の使われ方も変わってきました。当協議会においても、研修会とグラム染色講習会を柱にしつつ、これからはできるだけ事業を広げることも検討していきたいですね。APICSや秋田CNICネットワークなど、各部門それぞれでより活動を広げていくためにはどうすればいいかについても、考える時期に来ていると思います。また、2013年に協議会設立30周年を記念して「県民感染予防フォーラム」を開催しており、一般に向けた啓発も大切だと考えています。

加賀谷氏 新規抗菌薬が開発されなくなっている時代にあって、我々薬剤師には今ある薬剤の効果はそのまま残し、次世代につなげていく役割があります。AMR対策が発展してきたことで、以前と比べ使われ方は標準化されたと思いますが、抗菌薬をあまり使ったことのない診療科では、止め時が曖昧で漫然と投与しているケースもみられます。今後はもう少し適正使用を意識して使ってもらえるよう、働きかけていきたいと考えています。

佐藤氏 感染管理認定看護師の集まりとして、秋田CNICネットワークが発足して3年目になります。今まではCNICの中だけで活動をしていましたが、それだけでは限界があります。今後はより広くいろいろな職種と、ゆくゆくは一般の方々に向けて、研修会や啓発活動を広げていければと考えています。

髙橋氏 臨床検査技師の役割として、まず「データを出す」ことが挙げられます。県内の検査技師と連携を取りながら、できるだけ正しい細菌データ・耐性菌情報を迅速に発信し、感染防御に貢献していきたいと思います。

長年にわたる取り組みが評価され、今回議長賞を受賞されました。最後に、受賞の感想をお聞かせください。

植木氏 秋田県人は総じて奥ゆかしく、自分たちからアピールするということが少ない気がします。しかし個人的にはそれも残念で、「こんなによい取り組みを続けてきたのだから、きちんと表現して世の中に出して、ちゃんと評価してもらうべきだ」と感じていました。今回AMR対策普及啓発活動に応募したのは、それを具現化したかったからです。同時に、協議会のメンバーには所属していることの誇りを感じてほしい、そこからもっと高みをめざしてほしいという思いもありました。議長賞を受賞して、「今までやってきたことは間違いじゃなかったんだ」というメッセージをメンバーに返すことができたと思います。受賞後は協議会でお披露目したり、秋田県庁や各所に報告に行ったり、また賞状をきれいに印刷して会員施設に配ったりしました。会員施設に、協議会に所属しているからこその価値や意義を再認識し、さらに発信を続けてもらいたい。その意味で今回の受賞は、外に向けて「どうだ」というより、内側に向けても重要なことだったと感じています。事務局としてもたいへん励みになっており、この受賞にはとても感謝しています。

協議会のホームページ
日本科学未来館での表彰式にて

写真左:協議会のホームページには、「第2回AMR対策普及啓発活動 国民啓発会議議長賞」受賞が大きく紹介されています。
写真右:協議会会長の廣川誠氏(右)と議長の毛利衛議長(左)。日本科学未来館での表彰式にて。

(このインタビューは2019年11月20日に行いました)

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