列島縦断AMR対策 事例紹介シリーズ ~地域での取り組みを日本中に“拡散”しよう!~

オリジナルキャラクター「バイキンズ®」を用いて 感染症やAMRをわかりやすくつたえる

第3回AMR対策普及啓発活動 文部科学大臣賞
2020年3月

一般向けにも「バイキンズ®ワールド」の活動を展開

キャラクター化したことで子どもにも親しみやすく

一般向けにはどのような活動をしているのですか。

金子氏 「バイキンズ®ワールド」をテーマに、セミナーや講演会などを開催しています。その1つが大阪府の小中学生向けセミナーで、これは弊学と大阪府立大学、大阪府立大学工業高等専門学校が共同で毎年開催している体験学習プログラム「小中学生サマーラボ」の一環として行っています。また、サイエンスアゴラ(科学と社会をつなぐ広場[アゴラ]となることを標榜し、独立行政法人科学技術振興機構が主催)には2015年から毎年出展しています。そのほか、関係者のお子様を対象とした小学生向けのメディカルキッズセミナーに参加したり、昨年は東芝未来科学館で実験教室のお手伝いをしました。

子どもにはバイキンズ®のキャラクターは親しみやすいのではないですか。

金子氏 子どもの反応はおもしろいですね。サマーラボで早押しピンポンを使ったバイキンズ®のシルエット当てクイズをした時は、子供たちは皆間違いを恐れずにボタンを押しまくるので非常に盛り上がりました。セミナーに参加した小学生の中には、32種類のバイキンズ®を全部覚えてしまった子もいます。
 また、私には小学生の息子がいてポケモン好きで、ポケモンの本をよく読むんですが、学校の教科書よりも漢字が多いのにスラスラ読みます。ふり仮名さえついていれば学校で習わない漢字でも読んでいるうちに覚えてしまっているようです。バイキンズ®カードに出てくる漢字も、何度も見ているうちに読めるようになり、「MSSA(普通のブドウ球菌)がmecA(メチシリン耐性遺伝子)進化するとMRSA(耐性菌)になる」ことも覚えてしまったほどです。子どもたちはバイキンズ®も耐性菌も、アニメのキャラクターのような感覚でとらえているのかもしれません。

科学と社会をつなぐイベント「サイエンスアゴラ」、小中学生向けの「サマーラボ」の様子

科学と社会をつなぐイベント「サイエンスアゴラ」、小中学生向けの「サマーラボ」の様子。
細菌学ホームページを手掛ける会社のスタッフの方お手製の編みぐるみは、子どもたちにも大人気。

AMR対策の啓発で大切なことは何ですか?

金子氏 AMRについては主に医療従事者向けの啓発が大切だと考えています。実際、医療従事者も感染症の専門家ばかりではないので、例えば院内で感染症法(正式名「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)で定められたケースが発生した場合、届出が必要だということを知らないスタッフもいると思われます。
 一般の人には、「細菌とウイルスは違う」ことをまず知っておいてほしいと思います。風邪などウイルス感染症に抗菌薬は効かないのに、抗菌薬(抗生物質)を希望する患者さんは少なくありません。抗菌薬はどんな時に使うべきか、また使いすぎれば耐性菌が増えることを、メッセージとして伝えることは重要だと考えています。

「わかりやすく」「楽しく」がAMR対策の普及啓発につながる

「好き」を原動力に、これからも新しいチャレンジを。

今回文部科学省を受賞しましたが、そもそも応募した動機は何だったのでしょうか。

金子氏 バイキンズ®ワールドの活動に公的な“お墨付き”をもらうことで、弾みをつけたかったというのが大きな理由です。受賞が決まった時はホッとしました。活動当初は、大学から研究科長裁量経費を受けて活動をスタートし、大学の名前を出して活動してきたので、大学に対して1つ恩返しができたという思いもありました。また、家族が喜んでくれたのも嬉しかったですね。

大阪市立大学 大学院医学研究科細菌学講座ホームページ

大阪市立大学 大学院医学研究科細菌学講座ホームページ
バイキンズ®カードのダウンロードや、オンライン細菌学講座の参加ができる。

受賞理由の1つにクラウドファンディングの活用が挙がっていました。

金子氏 意外でしたが、自走のための試みが評価されたのかもしれません。一般向けの出前講義やイベントへの出展は費用がかかります。当初は大学から支援を受けていましたが、毎年もらうことはできません。バイキンズ®カードの売上の一部を活動資金にしたり、サイエンスアゴラなどはほぼ自腹で行っていました。学内で研究系クラウドファンディング制度が新たに整備されたり、ファンディングの代行会社とのご縁もあって、支援を募ることにしました。

今後取り組んでいきたい活動はありますか。

金子氏 細菌やAMRについて楽しく学ぶ、YouTubeを立ち上げたいですね。大まかな構想はできているので、いずれ発信できるようにしたいです。また、気軽に同志が集まってAMRを考えるコミュニティも作りたいです。

お話を伺っていると、何だか細菌学の伝道師みたいですね。

金子氏 原動力は「好き」です。活動自体が好きですし、子どもたちと触れ合うのも好き、新しいことをするのが好きだから、一生懸命やっているだけです。子どもの頃はよく風邪をひいていたので、医師にはずいぶんお世話になりました。そこから感染症に興味をもち、はじめは細菌、その後真菌、そしてもう一度細菌の研究に携わり、学生に教えることになって、どうせ教えるのであれば楽しくやろうと思い、今に至ります。
 今年は「感じる細菌学×抗菌薬」という本も出ます。医療従事者向けの内容で、ある程度専門的ですが、普通の教科書では勉強する気が起きない人が最初に手に取る入門書として、お勧めしたいと思います。金子の分類も載ったオールカラーの本で、6コマ漫画やパラパラ漫画風イラストなど、楽しく学べる仕掛けも入れました。

『染方史郎の楽しく覚えず好きになる 感じる細菌学✕抗菌薬』じほう
『染方史郎の楽しく覚えず好きになる 感じる細菌学✕抗菌薬』

染方史郎こと、金子先生の最新著書。
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AMR対策の普及啓発活動には「わかりやすく」「楽しく」も大切ですね。

金子氏 そうですね。とはいえ、今は自分の持ち駒だけでやっていますが、本当はもっと勉強しなくてはとも思っています。もっと勉強して、もっと難しいことを、もっと簡単に教えたいと考えています。

(このインタビューは2020年1月27日に行いました)

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