列島縦断AMR対策 事例紹介シリーズ ~地域での取り組みを日本中に“拡散”しよう!~

ユニークな発想と多彩なアプローチで市民啓発を展開

第3回AMR対策普及啓発活動 薬剤耐性対策推進国民啓発会議議長賞

2020年12月

市民啓発に取り組むことで医療者の輪も広がる

病院の外にも出て、積極的に働きかけているんですね。

田辺氏 2年目は子どもが集まるところに売り込もうと、毎年三重大学講堂で開催される「青少年のための科学の祭典」に出店しました。この祭典には3,000名もの来場者があり、たくさんのブースが出ます。その1つとして手洗い教室を開催したところ、延べ1,120名もの子どもと保護者が参加してくれました。

啓発対象としては、やはり高齢者と子どもが重要ですか。

新居氏 そうですね、どちらも抗菌薬の使用頻度が高い集団ですから。また、子ども向けのイベントには保護者が付き添います。大人も一緒に体験してもらえるので、「子どもに伝える=保護者に伝える」ことになるんですね。

講座・祭典の様子

(左)市民公開講座の様子。(中央/右)「青少年のための科学の祭典」に出店したときの様子。
手洗い演習や微生物観察などの体験型コーナーを設けて子どもたちへの啓発を行った。

小・中・高校生への出前授業を実施

3年目も何か新しい試みをしましたか。

新居氏 三重県薬剤師会と協働で、AMRの川柳日めくりカレンダーを作りました。抗菌薬適正使用を推進するためにも、保険薬局をしっかり巻き込みたいと考え、「一緒にカレンダーを作りませんか」と声をかけたのです。川柳はチラシやSNSで募集し、薬剤師の方にも審査員をお願いし、31首を選定しました。これらの川柳にコメントをつけ作成したカレンダーは、県内すべての病院と保険薬局に送付したほか、MieICNetのホームページからダウンロードもできるようにしました。

カレンダー

保険薬局と一緒に開発した啓発カレンダー。
一般から公募した川柳を掲載するなど、より多くの人が関わる工夫も。

企画力と実行力がすごいですね。

田辺氏 3年目はデジタルサイネージ広告も出しました。11月の1カ月間、大型商業施設内のデジタルサイネージ58面に、AMR対策推進月間ポスターを掲示しました。また学校に乗り込んで、出前授業もしたんですよ。

新居氏 三重大学の附属学校に授業計画書を提出して、感染対策とAMRを学ぶ1時間のコマをもらい、小学校3年生・中学校1年生・養護高校2年生を対象に、保健の授業の一環として話をさせてもらいました。

田辺正樹氏

田辺正樹氏
三重県医療保健部 医療政策総括監

反響はいかがでしたか。

新居氏 今年は新型コロナウイルスが流行していますが、我々が授業をした学年は感染対策の意識が高く、きちんとマスクを付け、手洗いもできているそうです。学校からは「今年もやってほしい」と、再度オファーをいただきました。また子どもたちの感想文を読むと、感染対策については小さい頃からやってきて当たり前になっていること、AMRについては中学生になるとかなり理解できていることがわかりました。

田辺氏 自分にとって、今回の活動は第2期にあたります。第1期は2007年から厚労省へ出向するまでの4年間で、手洗い教室はその頃からやっていました。ちょうど新型インフルエンザが流行する前で、我々が教室を開いたクラスは学級閉鎖をせずに済み、今回の状況とそっくりだなと思いました。現在はAMRを前面に出して活動していますが、根底にあるのは皆が手を洗い感染を防ぐこと、抗菌薬を適正に使い耐性菌が広がらないようにすることの両方です。そこはずっと変わっていません。

ポイントは「やる気」「仲間をみつける」「楽しく」

お話を伺っていると、1年目から積極的に活動したことが後からじわじわ効いた印象があります。

新居氏 こういう活動をしていると、知り合いは増えますね。それに、あちこちから声をかけてもらえるようになりました。例えば、津市内で教養講座を開催している市民団体に頼まれて、感染症の講演会を2年連続でやりました。

田辺氏 研究終了後も取り組みを続けるために、この3年間でやれるだけのことはやり、ノウハウを身につけたいと考えていました。まずは自分たちでアクションを起こし、次は相手の土俵に乗り込んで、という作戦で活動していたら、お誘いをいただく機会が増えました。

この3年間をふり返って、手ごたえや変化は感じていますか。

田辺氏 正直、一般市民の認識はわからないですね。評価の手立てもないですし。ただ我々の取り組みによって、AMRという言葉だけでも知ってもらえたり、「なんか最近この言葉見かけるよね」と感じてもらえたらと思いますし、そのくり返しが重要だと考えています。

新居氏 市民側の評価はできませんが、AMRに興味のある関係者がどれだけいるかがわかりました。彼らが我々と一緒に活動することで、自分たちにもできることを見つけ、自分たちの施設で行動を始めることにつながっているのではないかと思います。実際「こんなことをやりたいんだけど」「マネしてもいいか」と聞かれるので、「どんどんやって!」と言っています。

思わぬ波及効果があったんですね。「やってみたい」という人に向けて、何かアドバイスはありますか。

田辺氏 まずはやる気。やる気になれば、お金がなくてもできることはたくさんあります。それから仲間をみつけること。病院の外にも出ていって、いろいろな人に働きかける。予算を取るという意味では、行政に働きかけることも大切だと思います。

新居氏 3年間やってみて思ったのは、「皆いいものを持っているのに、どうして出さないのだろう」ということです。私自身家の中にこもっていたいタイプでしたが、宿題をたくさんもらい期待されることで育てられました。きっかけがあれば頑張れるし、自分が頑張ることで次の人にバトンが渡る。つながっているんだなと感じています。

新居晶恵氏

新居晶恵氏
三重大学医学部附属病院感染制御部
中央材料部看護師長

確かに、仲間がいるからできることはたくさんありそうです。

新居氏 何かアイデアが浮かんだら、次は「誰を巻き込んだらこれができるだろう」と考えます。自分一人ではできないので、まずは巻き込まれてくれる人探しですね。その際のコンセプトは「楽しく」です。楽しくなかったら自分でやる気にならないし、人にも手伝ってもらえません。普段の生活から「これをやったら楽しいだろうな」「これは何かに使えないだろうか」という視点を、頭の中にいつも持っている気がします。

田辺氏 感染制御の仕事ってつらいんですよ。病棟にラウンドに行けば悪者扱いされますし。だからこそ自分たちも楽しんでやれることを考えるようにしています。

今後の目標はAMR対策を継続するための体制作り

これから取り組んでいきたいことはありますか。

田辺氏 この3年間の取り組みを、継続的にやっていける体制を作りたいですね。そのためには地域の認定看護師を活用したり、行政も巻き込む必要があります。行政はなかなか動かない代わりに、一度動いたらやり続ける。逆に、研究者は新しいことはすぐやるけれど、飽きっぽい。私は当病院に着任する前は厚生労働省に2年いて、昨年からは県庁に移りました。病院勤務と行政勤務の経験を活かし、三重県全体で感染対策に取り組んでいきたいと考えています。

新居氏 出前授業に行ってみて、やはり学校で教えることは大切だと感じました。今の保健の教科書に、AMRのことは載っていません。しかし国としてAMR対策に取り組むのであれば、小さい頃から教育現場の資材に入れた方がいいのではないかと思います。そのためにどんなことができるか、これから考えていきたいです。

イラスト画

市民団体のスタッフが描いてくださったお二人のイラスト画は、
啓発活動の輪が広がったことを示す大切な1枚。

最後に、今回受賞した感想をお聞かせください。

新居氏 もっと頑張っている人たちもいるのに、こんなすごい賞をいただいて申し訳ないという思いもありました。ただ、今まで一緒にやってきた仲間が「自分たちの活動が認められた」と感じてもらえるなら、胸を張って受けなければ、と。だから、自分がもらった賞ではないと思っています。

田辺氏 厚生労働省による抗菌薬適正使用推進モデル事業が今年度から始まり、我々の取り組みが国の事業につながりました。また今回賞をいただいて、社会啓発の1つのやり方を示すことはできたかなと思っています。そもそも何のためにAMR対策をしているかといえば、未来に使える抗菌薬を残すためです。感染対策はオセロのようなもので、黒と黒(感染対策をやらない人)に挟まれれば白(感染対策をする人)も黒になるし、逆もまたしかりです。一人ひとりが持っているポテンシャルを引き出しながら、これからも取り組みを続けていき、皆が白となる世の中になればと思います。

活動メンバーたち

活動を支える頼もしいメンバーたち。(2017年市民公開講座)

(このインタビューは2020年10月9日に行いました)

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