感染制御ネットワークを立ち上げ、青森県全体で感染対策を推進
第1回AMR対策普及啓発活動 国民啓発会議議長賞
ネットワークのさらなる広がりをめざして
老健施設とのネットワーク作りも視野に
AICONを立ち上げて7年経ちましたが、手ごたえは感じていますか。
齋藤氏 手ごたえというより、時代の流れを感じています。コロナ禍以前はいろいろな病院から依頼を受けて、年に10回ぐらい講演をする時もありました。その病院のAICONのメンバーに、「感染対策に目が向いていない医師に基本を伝えてほしい」と頼まれて、「ICT(および正しい抗菌薬使用の情報)活動が機能していないと病院が大変なことになりますよ」という話をしていたわけです。それが今では医師の方から、「こういう症例ではどんな抗菌薬を使えばいいですか」と聞いてくれる時代になったわけですから。
今後取り組んでいきたいことはありますか。
齋藤氏 病院同士のネットワークはかなり出来上がり、何かあればすぐ情報が入ってくるようになりました。次は介護老人保健(老健)施設に対するサポートやネットワーク作りですね。今回のコロナ禍では老健施設の情報も入ってくるようになり、どの施設がどんな状況なのかだいぶ把握できるようになってきました。またコロナ禍以前は、老健施設のスタッフを対象とした講習会を毎年開催していました。オンラインでの教育もできなくはないですが、やはり対面の方が圧倒的にリアリティがあります。状況が落ち着いたら、こうした講習会も再開したいと考えています。
一般の施設や市民に対する啓発も必要
一般向けとして何か考えていることはありますか。
齋藤氏 感染対策の手がまだ及んでいないのが、学校やスポーツ施設といった人が集まる場所です。飲食店も個々で感染対策を努力されていますが、医療機関が指導に入っているわけではないので、すこし首をかしげるような例も散見されます。こうした様々な現場に対して、感染対策の正しい知識を普及していく必要があると考えています。また昨年は市民公開講座が予定されていましたが、コロナ禍で中止となりました。今後は、このような一般の施設や市民に対する感染対策の啓発にも力を入れていきたいと考えています。それは「正しい恐怖感」を持つことにもつながります。
AMR対策という点ではいかがですか。
齋藤氏 個人的には、病院における抗菌薬適正使用をいかに評価するか、指標に関するデータをまとめているところです。指標は病院の特性によっても異なり、基幹病院であれば敗血症患者の死亡率や治療日数、市中病院であれば肺炎の患者数や死亡率になるかと思います。血液培養2セット提出率も、ASTの活動がうまくいっているかの指標になります。例えば当院における血液培養の「複数セット」提出率は、2011年には約50%だったのが現在は96%で、血液培養時には2セット採取が当たり前になってきたことを感じます。
また今調べているのは、敗血症患者におけるde-escalation*の割合です。当院の場合、2011年は7%程度だったのが2020年では30%を超え、そのうち17%はASTの介入なしに担当医師の積極的な判断で行われていました。全身管理が必要な医師にとってde-escalationはかなり浸透してきており、これもまたAMRの1つの指標になると思います。
*起炎菌の可能性が高まった菌に対し、感受性のある最も狭域な抗菌薬へ変更すること
現場で頑張っているスタッフを勇気づけたい
今回受賞した感想をお聞かせください。
齋藤氏 前会長の萱場先生は教授に就任後、県内ほぼすべての基幹病院に足を運び、ネットワーク作りへの協力をお願いして回りました。だからこそ他の病院も協力してくれて、立ち上がったのがAICONです。はじめに形を作った萱場先生の貢献度ははかりしれないと、受賞して改めて感じました。
「第1回AMR対策普及啓発活動 国民啓発会議議長賞」授賞式での写真
AICON前会長の萱場 広之氏
(弘前大学医学部付属病院 感染制御センター センター長、教授)
なかなかできることではないですね。
齋藤氏 そう思います。またこのような賞をいただいたことは、感染制御に取り組むメンバーの地位向上にもなります。いただいた表彰状は立派なコピーを作って会員の施設に送り、「ICTの部屋に飾って下さい」「病院長にも見せてあげて下さい」と伝えました。小さな病院では、実働部隊は1人というところも少なくありません。そういうスタッフがプライドをもって自分の仕事に打ち込める、勇気づけになったのではないかと思います。
メンバーの方々にとってAICONの存在は心強いと思います。
齋藤氏 メンバーには薬剤師や検査技師の方々も多く、自施設における抗菌薬の使われ方、耐性菌の状況、検体の出され方など、医師よりもむしろよく知っています。彼らに言わせると自施設の状況はまだまだ改善の余地があるようですが、AICONの活動はそれを高めようとする原動力になっていると思います。時代の流れで、以前に比べればICTやASTの意見に耳を傾けてもらえる風潮にはなってきました。AICONはこれからも、こうした現場で頑張っているスタッフを勇気づける存在であり続けたいと考えています。
2021年 AICON事務局(弘前大学医学部附属病院 ICT,AST)の皆さん
(このインタビューは2021年7月20日にオンラインで行いました)