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2つのシステムPigINFO Bioとe-shijishoで 養豚農場ごとの抗菌薬使用量を継続的に評価 ~ 正確なデータの収集と分析を積み重ねながら、抗菌薬適正使用を支援 ~

2022年9月

e-shijishoで要指示薬の指示書を電子的に発行

全国的な使用量評価には指示書発行の電子化が必須

ここからは、2つめの研究課題である要指示薬の電子指示書システムe-shijishoについて伺います。どのような経緯で研究が始まったのでしょうか。

山根氏 PigINFO Bioで何が大変だったかというと、農場から送られてくるバラバラなデータを整理して、1つ1つ製品IDを入力することでした。PigINFO Bioは約120の養豚農場が対象でしたが、将来的には全国に約3,700ある養豚農場すべてが対象になるとすると、100農場でも膨大な作業なのに、これが500とか、まして3,000など、とても無理だということが研究途中からすでに明らかでした。そこで考えたのが、獣医師がWeb上で指示書を発行する電子システムを作れば、より多くの農場に対しても対応できるのではということでした。*5

  • *5:本研究課題は、日本中央競馬会畜産振興事業である「電子指示書を用いた豚群衛生管理の実証試験事業」の中で行われた事業であり、e-shijisho は本事業の中で開発されたアプリです。本事業の実施主体は国立大学法人東京大学です。

そもそも指示書はどのように発行されているのですか。

山根氏 そもそも抗菌薬、ワクチンなどの動物用要指示医薬品は獣医師が診療し使用するものですが、多頭飼育の畜産では、獣医師が診療をもとに指示書を発行し、動物の所有者がその指示に基づいて要指示医薬品を使用することもできる仕組みとなっています。そこで、生産者が要指示薬を購入するには、獣医師が処方する指示書が必要になります。指示書は獣医師控え、生産者(養豚農場)用、家畜保健衛生所提出用、そして薬の販売業者用の4部が発行され、指示書を受け取った販売業者が農場に薬を届けています。現在ではこのやり取りのほとんどが紙ベースで、その多くがFAXです。この研究課題では、これら4者をWeb上で結び、獣医師が製品IDのついた指示書を発行すると自動的に送信され、同時にデータがクラウド上に保存されるシステムを作ることで、正確なデータの共有・保存・利用を簡単に行うことを目指しています。

e-shijishoは抗菌薬が対象ですか。

山根氏 すべての要指示薬が対象です。指示書が必要な動物用医薬品には、抗菌薬のほかワクチン、駆虫薬、抗原虫剤、神経系用薬、代謝性用薬、繁殖用薬があります。抗菌薬だけが対象のシステムを作っても面倒で誰も使いません。そのためまずは、これらの医薬品すべてに製品IDをつけたデータベースを作りました。

大変な作業だったのではないですか。

山根氏 数が多くDDD値の設定も複雑だった抗菌薬に比べれば、比較的簡単でした。本研究は2020年にスタートし、現在はJASVが中心となって実証試験を行っているところです。2021年度は3名の獣医師と20の農場が参加し、最終年度にあたる2022年度は10名の獣医師と50の農場が参加の予定です。

e-shijishoのしくみ

e-shijishoのしくみ

本研究でも農場や獣医師に対するフィードバックはあるのですか。

山根氏 データベースに蓄積された指示書データを定期的にダウンロードして、農場ごとに抗菌薬とワクチンの使用量を解析し、結果をレポートにまとめて月1回返しています。なお、この場合の使用量は個々の農場における絶対量で、相対評価は入っていません。具体的な内容についてはJASVと協議を重ね、農場にとって興味ある情報を入れた方がいいだろうということで、レポートには抗菌薬とワクチンの購入金額の項目も含まれています。

shijishoの解析結果例

e-shijishoの解析結果例

使用量に関して、これまで解析した結果はいかがでしたか。

山根氏 PigINFO Bio同様、抗菌薬の使用量は農場によって多いところと少ないところに分かれました。また、ワクチンは参加農場すべてで生産ステージに関わらず使用されていましたが、抗菌薬との比率でいうと、抗菌薬への依存度が非常に高い農場もあれば、その逆もありました。今後、抗菌薬の使用をできるだけ減らし、ワクチンに置き換えていく方向であれば、その推進にこうしたデータが役立つのではないかと考えています。

目に見えにくい耐性菌問題

PigINFO Bioやe-shijishoに対する反応はいかがでしたか。

山根氏 e-shijishoは、獣医師からの評判が非常にいいです。指示書関連業務が大幅に簡略化され、「1回やるともう元には戻れない」と言われます。このように利用者にとって活用の価値が高いシステムは継続すると思います。

PigINFO Bioに関してはいかがですか。

山根氏 農場の反応はほとんどないですね。抗菌薬の系統別使用量を見てもおそらくピンとこないでしょうし、関心は低いです。実際、本研究課題の一環で、72農場における抗菌薬使用量を調査しましたが、研究期間中の3年間で使用量に変化はみられませんでした。本研究の参加農場は比較的優秀なほうだと思うのですが、それでも減っていませんでした。PigINFO Bioについては、継続に向けて行政などからの指導がなければ、このまま消えてしまう可能性もあります。

せっかくシステムがあるのに、活かさないのはもったいない気がします。

山根氏 耐性菌の問題は目に見えにくいんですね。狂牛病やコロナウイルスのようにデメリットがはっきりしていれば社会が黙っていませんし、行政のアクションも早いです。よく「2050年には耐性菌による死亡ががんを上回る」といわれますが、直近で亡くなるのと30年後では切迫度が違います。本気で抗菌薬使用を削減しようというのであれば、抗菌薬を客観的に測定できるシステムを活用して、抗菌薬の使用量が多い農場に対して削減を働きかけることも重要だと考えます。

e-shijishoの普及、PigINFO Bioとの合体をめざして

先生は今年3月に農研機構を定年退職され、新たにAgriINFOという会社を立ち上げられたそうですね。

山根氏 はい、AgriINFO株式会社を設立した理由の1つは養豚場を対象とするベンチマーキングシステムを継続するためです。またe-shijishoの研究課題も、最終の2022年度は当社が業務を引き継ぎました。私自身は疫学と統計学が専門で、当社ではデータを活かしながら畜産・農業分野における経営向上をはかるべく、データ分析や調査研究、コンサルティングなどを主な業務としています。

最後に、家畜分野における抗菌薬慎重使用に向けて、今感じておられることをお聞かせください。

山根氏 大切なのは、きちんとしたデータに基づいて現実を知り、議論しようということです。そのための手段として、我々はPigINFO Bioとe-shijishoという2つのシステムを作りました。e-shijishoは実証試験中の50農場でうまくいけば、500に広げるのはそれほど難しくないと思いますし、500を超えれば1,000もすぐでしょう。e-shijisyoで収集された製品コード付きの抗菌薬使用量のデータに、DDDベースでの解析機能を実装したPigINFO Bioに適応させれば、全国レベルで抗菌薬使用量を相対的に評価することができます。
 すべての農場で普及させるのは無理だとしても、できるところが牽引すれば、ある時点で状況が一気に変わる可能性はあります。私自身は、1,000あたりにその閾値がある気がしています。これからも焦らず腐らず地道に取り組んでいけば、データがたくさん集まって、一瞬で変わる瞬間があるんじゃないか、いやあってほしいと思っています。

(このインタビューは2022年6月24日にオンラインで行いました)

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