列島縦断AMR対策 事例紹介シリーズ ~地域での取り組みを日本中に“拡散”しよう!~

AMR対策推進のまち・姫路市の取り組み~全国に先駆けて、自治体として啓発活動を推進~

2023年2月

切れ目なく息の長い取り組みで安心・安全なまちをつくる

感染症非専門の医療従事者に向けてセミナーを開催

医療従事者向けの施策について教えてください。

北窓氏 2022年11月に、感染症が専門でない医療従事者を対象とした研修会「AMR対策臨床セミナーin姫路」を開催しました。国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターの全面的なご支援のもと、姫路市医師会・歯科医師会・薬剤師会・臨床検査技師会、さらには兵庫県看護協会西播支部および姫路赤十字病院にもご協力いただきました。セミナーでは全国の先進事例はもちろん、姫路市内における取り組み事例も報告され、医療従事者の方々に幅広く関心をもっていただけたのではないかと思います。

AMR対策臨床セミナーin姫路(2022年11月)

AMR対策臨床セミナーin姫路(2022年11月)

AMR対策推進にあたり、医療機関や関係団体との連携はスムーズにいきましたか。

北窓氏 以前から、新型コロナウイルス対策のWEB会議やWHO西太平洋地域委員会関連イベントなどを通じて、関係を密にしてきました。イベントなどの開催準備を市担当課と各団体間で進める中で、よい連携が生まれ、AMR対策への理解も深まったと感じています。

コロナ禍の中、いち早く「立ち合い分娩できるまち」を実現

そのコロナ対策ですが、姫路市ではどのような取り組みを行いましたか。

清元氏 全国に先駆けて、2020年5月より妊産婦とそのパートナーを対象に、自宅で採取した唾液のPCR検査を全例無料で開始しました。当市は分娩施設が約10カ所あり、年間分娩数は約4,000人にのぼります。こうした施設でクラスターが発生すれば、分娩難民が出る可能性があります。「少子化対策の一環としても、分娩環境の安全を担保してほしい」という、姫路産婦人科医会からの要請に応える形で検査を始めました。その結果、一部の産院では、早くから立ち合い分娩を限定的に再開したとも伺っています。

それは凄いことですね。

清元氏 「立ち合い分娩できるまち」ということで、他都市と比べて出生率の下がり方も緩やかなものとなっています。また医師会や各医療機関のご協力のもと、兵庫県内でもいち早く「地域外来・検査センター」を開設し、コロナ対策にあたってきました。その過程ではクラスターも発生し、現場はまさに戦場だったと思います。対応いただいた医療機関の方々には、本当に頭が下がります。

コロナ禍がもたらした様々な変化

コロナ対策がAMR対策に活かされたことなどはありますか。

清元氏 これまで感染症対策は、各医療機関や各診療科などに分かれ、縦割りで行われていました。また自治体と保健所と病院と医師会が同じプラットフォームで話し合うことは、以前はほとんどありませんでした。それがコロナ診療や対策に関して医療機関の横の連携やネットワークができ、「オールジャパン、オール地域でやるぞ」という空気が生まれました。実務レベルで議論できるようになりましたし、タッグを組むことの重要性を痛感しました。

北窓氏 コロナ禍以降WEB会議が定着して、担当の先生方とは毎週のように顔を合わせるようになりました。そのお陰で、いろいろなお願いも意見交換もしやすくなったと感じています。

中村先生はAMRとの関連で感じたことはありますか。

中村氏 一般市民の感染症に対するとらえ方が、コロナを機にかなり変わったと感じます。コロナウイルスに対し「この薬は効くけどあの薬は効かない」といったことを、誰もがよく知っています。単一のウイルスですら効く薬と効かない薬がある、少し株が変わると効き方が変わる、とわかったことは大きいと思います。それなら細菌でも効く・効かないがあるのだろうと、想像が及びやすくなったのではないでしょうか。

AMR対策推進のまち宣言からまだ1年ではありますが、何らかの変化や手ごたえは感じていますか。

清元氏 医療従事者は確実に変わったと思います。公衆衛生や感染対策に対する認識が深まり、一部の医師だけがAMRを重要視していたのがコメディカルにも広がりました。

北窓氏 昨年度に比べて、予算がとりやすくなりました(笑)。また先日イギリス大使館から連絡があり、WHO西太平洋地域委員会関連シンポジウムで講演されたDame Sally Davies先生が、2月27日に姫路に視察にいらっしゃることになりました。

Dame Sally Davies先生視視察写真

Dame Sally Davies先生視察写真(2023年2月)

左より 岡田院長* 、Davies先生、清元市長、 Davidson在大阪英国総領事、 中村副院長* 、佐藤統括管理監*、 駒田看護部長*
北窓医監 *姫路赤十字病院

今後予定されていることがあれば教えてください。

清元氏 本年4月にこどもの未来健康支援センター、愛称「みらいえ」を、JR東姫路駅近くに開業します。保健所から母子保健事業の一部を移管し、乳幼児健診や子育ての不安や悩みに対応する相談窓口なども備えます。そこでは、「子どもの急病ガイドブック」を配布するなど病気に関する相談にも対応していきます。

北窓氏 2023年度以降は、市役所ロビーでの展示ブース設置や市民向けイベントへの出展、関連グッズの配布、また医療機関と連携した各種講演会の開催などを計画しています。

いかに全世代の市民に向けて認識を広げるか

現在の課題や今後の展望についてお聞かせください。

清元氏 課題はやはり、AMRに対する認識を市民の側にいかに広げていくかです。その取っかかりとして、まずは赤ちゃん事業から始めましたが、そこからどうやって全世代に広げていくか。時間はかかると思いますが、愚直に啓発活動を続けていくしかないと考えています。

北窓氏 姫路市には薬学部をもつ大学もあります。市役所の中だけでPRを考えるのではなく、若い学生の感性や力も借りて、今までとは違うPRのやり方を検討していきたいと思います。また本年5月には、広島でG7サミットが開催されます。AMRも重要課題の1つとなるのではないかと考えられるので、その状況も見ながら何か姫路市らしいことができればと考えています。

医師の立場から、中村先生の方で要望などはありますか。

中村氏 コロナ対策を通じて、本当にいろいろな医療機関や行政の方々と情報をやり取りする機会がありました。こうしたプラットフォームを、今後も何らかの形で維持していただければ、AMR対策に活かせられるのではないかと思います。

AMR対策が浸透するにはしばらく時間がかかりそうですね。

清元氏 10年20年かかるかもしれませんが、今から着手していくべき重要な課題だと考えています。病気には国境もなければ市の境もありません。特に感染症は、人が集まるところで、リスクが生じます。近接の自治体とはおのずと交流も深くなりますし、市をまたいで通勤・通学している方も多く、AMR対策は広域に取り組んでいく必要があります。当市の姫路城は日本で最初に世界遺産に認定され、今年で30周年を迎えます。人の集まる国際観光都市である姫路がAMR対策に取り組むことで、地域に向けて、さらに世界に向けて、安心・安全なまちづくりの輪を広げていければと考えています。

最後に、全国の自治体に向けてメッセージをお願いします。

清元氏 AMR対策は「手洗いの徹底」や「健康づくり」、「抗菌薬の適切な服用」など、市民の参加により解決できる部分の多い課題ではないかと考えています。市民啓発を通して認知を広げ、医師と患者の良好なコミュニケーションを長期的に継続できれば、AMR対策の推進、ひいては市民の健康寿命の延伸につながると思います。姫路市の思いや取り組みを知っていただき、今後AMR対策に取り組む仲間が増えることを期待しています。

(このインタビューは2023年1月20日に行われました)

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