列島縦断AMR対策 事例紹介シリーズ ~地域での取り組みを日本中に“拡散”しよう!~

「まちの診療所」で実践する感染症診療 ~「原則」に従った診療が結果的に適正使用になる~

2023年8月

開業医として参画する地域のAMR対策啓発活動

「抗菌薬を出さないから来る」患者さんも

感染症診療に関して、患者さんの反応はいかがですか。

本康氏 当院の患者さんは私があまり抗菌薬を出さないことを知っているので、特に「ください」とは言われないです。

本康 宗信先生と診察室

本康 宗信先生と診察室

最初からそうだったのでしょうか。

本康氏 以前は「抗菌薬を出してほしい」と言われることもありました。そういう時は「念のために検査してみましょう」「調べたら陰性でした」「これなら抗菌薬はいりません」「よかったですね!」と話しています。「よかったですね」と言うと、患者さんは安心されます。「もう1回検査して万が一菌がいたら、その時は抗菌薬を絶対使いましょう」などと言っているうちに、風邪であれば治りますし、治ればもう来ません。最近は患者さんも、抗菌薬を出す前に培養検査をするという当院のやり方に慣れていて、ほとんど何も言われません。調剤薬局のスタッフからは、「抗菌薬が欲しい人は、よその診療所に行っている」と聞いています(笑)。

そういう方もいるんですね。

本康氏 逆に「出さないから来る」患者さんもいます。「他のところでは抗菌薬がたくさん出るので、怖くなって来ました」と言っていました。絶対出さない訳ではなく、いらないから出さないのですが、どちらであってもそれはそれで構わないと思っています。

薬の使い方を説明し、調剤薬局の理解をはかる

抗菌薬を含め、薬剤は基本的に院外処方ですか。

本康氏 当初は院内処方していましたが、現在は主に近隣の調剤薬局にお願いしています。薬局としては「よく処方される抗菌薬はストックしておきたい」というのがあるので、どういう使い方をしているかは最初に説明しました。例えば「ペニシリンはよく使うので、たくさん置いておいてほしい」といったことです。

処方に関して薬局から問い合わせなどはありましたか。

本康氏 「ペニシリンの量が多すぎるのでは」と言われたことはあります。ペニシリンは使う時は十分量使う必要があるので、多くても問題ないことを説明し、納得していただきました。ST合剤も他の先生はほとんど使わないので、最初は「置いてない」と言われましたが、「当院ではよく使うから」という話をして、準備してもらっています。

処方に関するやり取りが、地域の薬剤師の教育にもつながっているんですね。

本康氏 教育ではなく、情報共有ですね。こちらが使い方を説明すれば、先方もできる対応を考えてくれます。町内の薬局の方とは、直接お会いする機会もあるので、抗菌薬の使い方についてお話をする機会もあります。使う抗菌薬は限られていますし、つきあいも長いので、今はごく普通に対応していただいています。

多職種連携チームで地域のAMR対策啓発活動を推進

先生は静岡薬剤耐性菌制御チーム(AAS:Antibiotic Awareness, Shizuoka)の一員でもあると伺いました。

本康氏 AASは2017年、静岡県立がんセンター感染症内科の倉井華子先生を中心に、有志の医師・薬剤師・検査技師・静岡県庁職員が立ち上げたチームです。私は県内の感染症セミナーなどに参加していた関係で倉井先生にお声がけいただき、メンバーに加わりました。

活動内容について教えてください。

本康氏 静岡県全体で感染症の知識や理解を深め、行動変容に結び付けることを目的に、診療所を中心とした医療機関と市民に対する啓発活動を行っています。これまでに医師会に対する研修会を開催したほか、県内の地域別抗菌薬使用量や主要細菌の感受性率を調査し、アンチバイオグラムを作成しました。またこれらの結果をもとに、開業医向け「外来での抗菌薬適正使用手引き」も作成しています。手引きには成人版と小児版があり、成人版はアンチグラムを更新した第4版を2023年2月に発行しました。

チームの一員として広報活動をサポート

先生はどのように関わっているのですか。

本康氏 私は通報のとりまとめ、作成など、主に広報活動のお手伝いをしています。通報は感染症診療やAMR対策に関するテーマを取り上げ、わかりやすくまとめたものです。2週間に1回の発行で、静岡県下の6医師会・2医会・7病院・浜松市保健所に送付しており、7月1日発行の「はしか」で第134回を数えます。

静岡薬剤耐性菌 制御チーム 通報

静岡薬剤耐性菌 制御チーム 通報

2週間に1回発行するのは大変ではないですか。

本康氏 よく続いていると思います。チームの中で原稿に追加・修正を行っており、お忙しい方が多いのに、ご協力をいただいています。またチーム発足時に倉井華子先生*、荘司貴代先生**のお声がけで、医師会のご協力を得られたのが大きく、各医師会の会報などで広報をいただいています。

  • *静岡県立静岡がんセンター 感染症内科部長
  • **静岡県立こども病院小児感染症科 医長

AASには県庁職員の方も参加されていますね。

本康氏 後藤幹生先生*が最初からメンバーに入っており、お陰ですべてがスムーズに進みました。そうでなければ、県内のアンチバイオグラムの作成はなかなかできないと思います。

  • *静岡県健康福祉部 感染症管理センター長

2018年には静岡県感染症発生動向委員会の薬剤耐性(AMR)対策部会が発足しています。ASSとどう違うのですか。

本康氏 AMR対策部会は行政組織で、ASSの活動を静岡県全体の活動として公開する場になっています。ASS自体は何のつてもない、予算がつくわけでもない有志の集まりです。AMR対策部会を通すことで、いろいろな活動がしやすくなっています。

専門家でないからこそ原則を守る

先ごろ「AMR対策アクションプラン(2023-2027)」が発表され、薬剤耐性率や抗菌薬使用量の新たな数値目標が設定されました。どのようにとらえていますか。

本康氏 「AMR対策といわれてもピンとこない」という開業の先生方は多いと思います。私自身、何が抗菌薬の適正使用であるかは正直わかりません。ただ自院や地域の耐性率や使用量は、やろうと思えば調べることが可能です。いずれにしても、まずは「感染症診療の原則に従って診療を行う」ことが基本です。それが結果的に、抗菌薬使用量や広域抗菌薬使用の抑制につながると考えています。

最後に、開業医の先生方に向けてメッセージをお願いします。

本康氏 個人診療所には各々特徴があり、当院のように患者さんが少なく、検体検査の時間がとれるところばかりではないでしょう。経験豊富な先生方が多いので、診療のやり方について特に言うことはありません。ただ、私のように感染症の専門家でなく、きちんとした感染症学を学んでこなかった人間にとって、感染症診療の原則はとてもわかりやすく、その原則に則った診療はストレスの少ないものです。また私自身そうですが、わからないことは専門の先生に聞けば、親切に教えていただけます。今はeラーニングや専門家によるWebセミナーなど、オンラインで手軽に感染症診療を学べる時代です(表3)。苦手意識のある方は、これらを通して知識や情報に触れることをお勧めしたいと思います。

表3 感染症診療が学べるお勧めサイト

表3 感染症診療が学べるお勧めサイト

(このインタビューは2023年6月19日に行いました)

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