地域全体で合同カンファレンスを開催 ~互いに連携しながら感染対策に取り組む~
より地域に根差したネットワーク構築をめざして
保健所と医師会からも情報を提供
岐阜市感染対策地域連携カンファレンスの進行や内容を教えてください。
高井氏 カンファレンスは3月と9月の年2回、土曜日の午後に約2時間を使って開催しています。はじめに岐阜市保健所と岐阜市医師会から情報提供があり、続いて当番病院によるミニレクチャーと訓練が行われます。「全員参加型かつ双方向のディスカッションを」ということで、事前アンケートで診療所の先生方から寄せられた質問に6病院が回答するQ&Aセッションや、Zoomの投票機能を使ったセッションもプログラムに組み込んでいます。2022年10月に第1回を開催し、今回(2024年3月9日)が4回目となります。
岐阜市感染対策地域連携カンファレンス(2024年3月9日)
プログラムに関し、ほかに工夫されたことはありますか。
馬場氏 保健所からの情報提供も重要です。カンファレンスには保健所所長が毎回出席され、行政の立場から地域に発信したいこと、全医療施設に伝えたいことをお話いただいています。同様に医師会からは医師会の立場で今どのような状況で活動・運用しているか、どのようなことが問題となっているかを会員の先生方に伝えていただいています。地域全体で同じ話を聞き情報共有することは重要で、得られるものは大きいと考えています。
抗菌薬適正使用は重要なテーマの1つ
カンファレンスにおいて抗菌薬適正使用はどのように位置づけていますか。
馬場氏 AMR(薬剤耐性)対策は当初から重要なテーマの1つととらえ、毎回何らかの情報を紹介しています。例えば、第2回では「抗菌薬適正使用について」と題したミニレクチャーを行いました。また第4回のテーマは「若年者の発熱性疾患とみかた」で、小児の呼吸器疾患や消化器疾患における抗菌薬適正使用についても取り上げています。
第1回の開催から約1年半経ちましたが、何か変化はありましたか。
馬場氏 第3世代セファロスポリン系などに関し、一部で処方に変化がみられるようにも思います。ただ、正確には把握できていません。感染症報告のデータは各診療所がExcelファイルに入力したものを岐阜市医師会が一旦取りまとめ、各加算1算定病院に送付していただいています。当初はデータ入力に関する解釈の違いや入力ミスなどが多く、医師会から再三注意喚起していただいて、最近ようやくデータの精度が上がってきたところです。十分な検討を行うためには、OASCISでレセプト情報からデータが入るようになることが望ましく、将来的に期待されるところです。
当面の目標は「長く続ける」こと
今後の課題などはありますか。
馬場氏 まずは継続ですね。第一歩は踏み出せたので、何らかの成果が見える形で続けていきたいです。コロナ禍と言うべき状況が過ぎ去りつつある今、ここからが新たなスタートととらえ、内容を充実させていく必要があります。長く続けるには、参加者に過度の負担をかけないことも大切です。OASCISに関しては、当初は早期に移行したいと考えていましたが、今はもう少し丁寧に準備を進めていこうと、高井先生ともご相談しているところです。
医師会の立場からはいかがですか。
高井氏 今はやっと形ができてきたかなという段階で、細く長く続けていきたいです。会員の先生方にあまり負荷をかけても続かないので、目を惹くトピックスを提供しながら、年2回参加していただき、関心を持っていただく。保険点数ももちろんインセンティブになります。6病院で年2回開催して3年一回り、その間に算定要件なども変わる可能性があります。こうした状況もみながら、地域の中核病院である6病院との連携を、感染症に限らず長く継続していきたいと考えています。
こうした形の連携は全国でもめずらしいと思います。岐阜県ならではですね。
馬場氏 2017年に岐阜大学に着任し、地域連携において他の地域にはない大きな魅力・アドバンテージが岐阜にはあると感じました。そのアドバンテージをさらに活かすことで、他の地域ではできないことができる可能性を大いに秘めているように思います。「地域全体で」取り組むことが社会にとっては大切で、その思いが私自身の原動力にもなっています。
感染対策地域連携カンファレンスに参画して
ご参加の関係者の皆様に岐阜市感染対策地域連携カンファランスに関してコメントを頂きました。
岐阜市保健所 感染症・医務薬務課 課長
保健所の所長が、地域の先生方と直接お話しする機会はなかなかありません。行政の立場から伝えたいことを、テーマを絞ってお話し、我々も先生方から吸収する。そういう場として利用させていただいています。コロナ禍の経験で、感染症対策は保健所だけでは成り立たないことを強く感じました。今後はいかに密に、かつ常に連携できるようにしていくか、課題に取り組んでいきたいと考えています。
<岐阜市医師会>
岐阜市医師会理事、河渡こどもクリニック 院長
小児科は感染症患者が多く、以前から抗菌薬の使用状況などには興味がありました。OASCISを導入したことで、自院の立ち位置がわかるようになったのはよかったと思います。ただデータの入力は正直敷居が高く、途中で何度もやめようと思いました。もう少し簡単にできるようにならないと、加算施設を増やすのは難しい気がします。
岐阜県医師会常務理事、近藤ゆか耳鼻咽喉科 院長
私は耳鼻咽喉科で、特に急性感染症を診療しているので、前向きにOASCISに参加しようと思いました。自分で登録や設定を行うことは難しく、幸い優秀なスタッフがいたので、医師会にもその都度相談しながら何とか導入できた次第です。とはいえ実際導入してみると、自院の状況がデータでよくわかり、カンファレンスに参画してよかったと実感しています。
岐阜市医師会副会長、高井クリニック 院長
OASCISはふり返りができるツールとしても有益だと思います。自分がどれだけ抗菌薬を使っているか数字で出るので、使用に対して抑止的に働きます。外来で「風邪を引いたから抗菌薬がほしい」という患者さんに、しっかり「ノー」と言える。個人的には適正使用に効果的と感じていますが、誰でもできるかといえば、ハードルが高いのは確かですね。
<感染対策向上加算1算定病院>
岐阜大学医学部附属病院 感染制御室 室長
外来感染対策向上加算に関して、カンファレンスを開催する加算1算定病院にとってさまざまな負担が生じる一方、診療報酬上ではインセンティブがありません。しかし、地域で感染症に関する情報・意識を共有する機会としては、非常に重要です。岐阜市内にある感染対策向上加算1を算定している他の5病院の方々には、共同開催することの地域における意義や各施設のメリットなどもご説明して、ご賛同いただくことができました。
岐阜県総合医療センター 感染症内科
病院内で抗菌薬適正使用が進んでも、それだけでは十分とはいえません。開業医の先生方に抗菌薬について何か伝えられたらという思いは、以前からありました。いざお話してみると、先生方の興味の度合いには、かなり幅があると感じました。その中でいかに底上げしていくか。先は長いですが、第一歩が踏み込めたのは大きいと考えています。
国立病院機構長良医療センター 副院長、呼吸器内科
市中病院の場合、自分も含めて、必ずしもすべての領域の感染症に対応できる専門家が抗菌薬適正使用支援の活動をしているとは限りません。自分の専門以外の分野の感染症について指導するのは、心もとない部分もあります。各病院が当番制で得意な分野を話す形にすれば、内容の充実や全体のレベル向上をはかることができ、労力も少なくて済みます。そういう仕組みを作っていただき感謝しています。
岐阜市民病院 腎臓病・血液浄化センター長、感染対策部長
私は腎臓内科・膠原病内科が専門です。当院は500床を超える基幹病院ですが、2022年当時、感染症専門医はいませんでした。岐阜市に隣接する、もとす医師会からは一括(30以上の診療所)で最寄りの当院との連携を希望されましたが、当院単独で取り組むにはマンパワーからも困難と考えていました。この枠組みに、もとす医師会も入れていただいたこと、市内の加算1算定病院で標準化したうえでさまざまな取り組みができることを、ありがたく感じています。
岐阜赤十字病院 感染管理室、感染管理認定看護師
通常、各診療所とのやり取りは専従である看護師が担うので、そうした手間がかからないことがまずありがたいです。診療所からの感染症報告は、岐阜市医師会が収集・分析してくださっており、母数が大きいことで外れ値の少ないフィードバックが可能です。こうした点も、この枠組みの優れているところだと思います。
朝日大学病院 感染対策室 感染管理認定看護師、副看護部長
2012年に始まった県全体の合同カンファレンスは、岐阜大学が音頭を取り、もともとあった枠組みを利用して作ってくださったシステムです。我々はそれに乗っかる形で、スムーズに連携できたという経緯がありました。今回の合同カンファレンスはその流れにのっとったもので、これまでの恩義も感じながら、企画や運営に参画しています。
(このインタビューは2024年3月1日および9日に行いました)