多職種協働を目指した、13年間のAMR対策普及活動
第2回 AMR対策普及啓発活動 厚生労働大臣賞薬剤耐性(AMR)対策の優良事例として内閣官房の「AMR対策普及啓発活動表彰」を受賞した活動を中心にご紹介する本コーナー。第5回は「厚生労働大臣賞」を受賞した、特定非営利活動法人EBIC(Evidence-based Infection Control)研究会の活動を取り上げます。国内の先駆けとして感染管理の教育に力を注いできた研究会の歩みや、最近の活動について、理事長の佐竹幸子氏ならびにスタッフの皆様にお話を伺いました。
「第2回薬剤耐性(AMR)対策普及啓発活動表彰」における優良事例の表彰決定及び表彰式の実施について
- 理事長 佐竹 幸子氏
- (元群馬大学医学部保健学科 准教授)前列左
- 副理事長 林 俊誠氏
- (前橋赤十字病院感染症内科 副部長)前列右
- 副理事長 金子 心学氏
- (元前橋赤十字病院臨床検査科部 技師長)後列真ん中
- WHONET club運営委員 吉田 勝一氏
- (前橋赤十字病院臨床検査科部)後列左
- 事務局 横澤 郁代氏
- (元前橋赤十字病院臨床検査科部)後列右
日本の感染管理のレベルアップを目指して
WHO主導で抗菌薬感受性検査の精度管理を開始
特定非営利活動法人EBIC研究会(以下EBIC)の活動を開始された経緯を教えてください。
佐竹氏 EBICの活動は2004年から始まりましたが、前身は国際抗菌薬感受性精度管理研究会という任意団体です。設立当時、欧米の一部の国を除いた世界のほとんどの地域では、抗菌薬感受性検査の外部精度管理も内部精度管理※も充実していませんでした。そこで世界保健機関(WHO :World Health Organization)主導のもと、外部精度管理の推進が行われ、私たちも研究会を立ち上げて参加することになったのです。WHOやアメリカの疾病管理予防センター(CDC :Centers for Disease Control and Prevention )などと連携し、世界規模で外部精度管理(精度保証)に使用されている菌株(CDCから送付)を会員に発送して、各医療機関の抗菌薬感受性検査の精度管理状態を調査してきました。第1回目の調査を実施したのが1997年。100弱の施設が参加しました。
各種抗菌薬に対する感受性が分かっている標準菌株を用いて抗菌薬感受性検査を行い、得られた結果を確認することで、検査の質を確保し維持すること。
2004年9月設立。医療従事者の協働によって感染管理の質と効率を高めるために、科学的根拠に基づいた感染管理に必要な技術の研究開発や啓発を行う。
そこからどのように活動が広がったのでしょうか?
佐竹氏 ちょうどその頃、WHOが臨床微生物検査データ解析用ソフトウエア「WHONET(フーネット)」を開発しました。WHONETを用いると、抗菌薬感受性・耐性率(%)、ヒストグラム、散布図、耐性プロファイル(1つの菌株が複数の薬剤に耐性を獲得している多剤耐性パターンを見ることができる)、アウトブレイクを自動的にスクリーニングするクラスター警告などの解析が可能です。当時のフロッピーディスク1枚に収まるコンパクトさで、機能も充実し、かつ解析スピードも速いという優秀なもので、しかも無償でした。最初は今では懐かしいMS-DOS版でしたが、翌年Windows版が出たため、感染管理の質と効率を高めるためにぜひ広めたいという思いで、WHONETの使用方法の講習会を始めました。細菌検査結果のデータベースをどのように解析し、どう生かしていけばよいのかを習得する講習会です。
感染管理を多職種で学ぶ場を提供
今回の受賞にもつながった「EBICセミナー」について教えてください。
佐竹氏 抗菌薬感受性検査精度管理調査では、徐々に全体の精度が上がってきましたが、まだ感染管理認定看護師(CNIC:Certified Nurse in Infection Control、認定開始2001年から)の講習が始まったばかりで、たいていの病院には感染管理の専門家がおらず、情報が不足していると感じました。そこで1999年から、医師、薬剤師、看護師、検査技師らを対象に、科学的データにもとづいた感染管理のあり方を学ぶ「EBICセミナー」を開始しました。
感染管理で一番重要なのは、自分たちの感染管理がうまくできているかを知ることです。アメリカではCDCが作成した院内感染サーベイランス(監視)のための診断基準にしたがって、院内感染のデータベースを作っていました。私たちもこのデータベースを参考にしたいと考え、CDCと同じ基準の院内感染サーベイランスの勉強会「EBICワークショップ」を2002年から始めました。中心静脈カテーテル、尿路カテーテル、手術など、問題点を見つけやすいサーベイランスで、これを一泊二日のワークショップ形式で学びます。とても中身の濃い勉強会です。
こうしたさまざまな事業を、任意団体である国際抗菌薬感受性精度管理研究会が主催していたわけですが、もう精度管理ばかりではないので、名称がしっくりこない、また医療者を教育したり、貴重なデータを集めたりしていますので、きちんと法人にしたほうがいいのではないかと考え、2004年に名称を「EBIC研究会」にすると同時に法人化しました。
現在の会員数はどのくらいですか?
横澤氏 個人会員が148名、法人会員が5施設、賛助会員が2施設、WEB登録者が2437名です。
セミナーやワークショプには、どういった職種の方が参加されましたか?
佐竹氏 活動の最初の頃は看護師の参加が多かったのですが、「次は医師を連れてきます」とおっしゃっていただいたりして、徐々に職種が増えてきました。1施設から多職種10名で参加されるケースもありました。例えば、2009年のEBICセミナーでは参加者約410名のうち、看護師約320名、医師、薬剤師、臨床検査技師が各約30名でした。われわれも感染管理は施設全体で取り組む必要があると考えていましたし、それは参加者の方たちも同じでした。
「抗菌薬感受性結果の臨床的な読み方を基礎からじっくり学ぼう!」
というテーマで開催されたEBICセミナー(2018年、神戸)。
最近の活動の内容を教えてください。
佐竹氏 EBICセミナーはだいたい年に1回、継続して行ってきました。最近のテーマは 「抗菌薬適正使用プログラム(ASP:Antimicrobial Stewardship Program)について」、「抗菌薬感受性検査結果の読み方」などです。ASPについてのセミナーは、現状を把握して今後、どのようにしていったらよいのかを考えられるような内容で、基礎と実践の講習があります。抗菌薬感受性検査結果の読み方についてのセミナーでは、報告書に検査結果が書かれていない抗菌薬についても、薬剤の特徴や耐性メカニズムから感受性を推測しながら結果を読むことを学びます。
金子氏 抗菌薬感受性検査結果は、抗菌薬ごとに"効く"、"効かない"の結果が出ますが、生体内と生体外では違うので、そのままの結果が生体で使えるかというとそうではないのです。そこのところをぜひ知っておいていただきたいと考えています。
顕微鏡は1人1台。グラム染色を実習
佐竹氏 EBICワークショップもだいたい年に1回、行ってきました。初めのころは院内感染のサーベイランスをテーマにしていましたが、だんだんレベルも上がり、指導者も育ってきましたので、2013年からは他ではやっていないグラム染色の講習を行うようになりました。
グラム染色のワークショップは具体的にはどのようなものですか?
佐竹氏 参加者人数分の顕微鏡を用意して、全員に顕微鏡をのぞいてもらいます。顕微鏡の横には症例情報が書いてある紙があるのでそれを見て、顕微鏡で見ている菌が何かを推定します。すべて実際の症例の試料を用いています。クイズ形式で行っており、楽しみながら覚えられます。1試料7分で回っていきますので、1日でたくさんの症例について学ぶことができ、主要な菌をほぼ見分けることができるようになります。もちろん観察中に疑問点があったら、スタッフに聞くことができます。
それは準備が大変ですね。
金子氏 スタッフの施設や、支援病院から良い試料を集めます。「ぜひ見てほしい!」という試料ばかりをそろえていますので、大変有意義なものとなっていると思います。
佐竹氏 顕微鏡の台数分の方しか参加できないので、参加できない方のためにEBICでは会員限定で「グラム染色クイズ」を2週間に1回メールで配信しています。毎回、正解率を集計し、2週間後に正解と集計結果を報告するとともに次のクイズを出題するしくみです。これは林先生が枠組みを作ってくれました。今の時代だからできることだと思います。会員限定の配信が終わると、同じクイズをWEB登録者にも配信します。WEB登録はネット上ですぐにできますし、無料です。
② EBICのオリジナル教本。グラム染色で確認される菌の視覚的な特徴を分かりやすく解説。デザインも文章も林先生が手掛けている。
③ セミナーの最後に試験を実施。合格者には修了証が渡される。試験制度は参加者のモチベーション向上につながっている。
2週間に一度、会員にメール配信。会員はWEB上で解答する。
解答と正答率は次の配信時に公開される。
クイズに挑戦してみましょう。
※解答は記事の最後に掲載
EBIC グラム染色Webクイズ その7
喀痰のグラム染色(1000倍)です。
酸素化は低下し、重症の肺炎でしたが、ペニシリン感受性でした。
推定される菌の名前を1つ選んでください。※
Streptococcus pneumoniae
Streptococcus agalactiae
Streptococcus dysgalactiae
Streptococcus pyogenes
Enterococcus faecalis
※実際のクイズとは表現が異なります。