オリジナルキャラクター「バイキンズ®」を用いて 感染症やAMRをわかりやすくつたえる
第3回AMR対策普及啓発活動 文部科学大臣賞このコーナーでは、薬剤耐性(AMR)対策の優良事例として内閣官房の「AMR対策普及啓発活動表彰」を受賞した活動をご紹介しています。第10回で取り上げるのは、「薬剤耐性をわかりやすくつたえる」で文部科学大臣賞を受賞した、大阪市立大学大学院医学研究科細菌学教授・金子幸弘先生の取り組みです。感染症やAMRを楽しみながら学べるよう、オリジナルキャラクター「バイキンズ®」を用いた普及啓発活動を行っている先生に、お話を伺いました。
「第3回薬剤耐性(AMR)対策普及啓発活動表彰」についてくわしくはこちら
大阪市立大学大学院医学研究科細菌学教授
略歴 1997年長崎大学医学部卒業、2003年同附属病院第二内科医員、2004~2007年米国アイオワ大学・ワシントン大学博士後研究員、2007年国立感染症研究所生物活性物質部研究員、2013年同真菌部主任研究官を経て、2014年から現職。
細菌や真菌を自作イラストとともにキャラクター化
楽しみながら学べる「バイキンズ®カード」を作成
感染症やAMRを「わかりやすくつたえる」ために、どのような活動をされていますか?
金子氏 AMRについて広く理解をはかるには、まず微生物について知ってもらうことが大切です。そこで自作のイラストとともに細菌や真菌をキャラクター化、「バイキンズ®※」と名づけたこれらオリジナルキャラクターを用いて、感染症やAMRの普及啓発活動を大学内外で行っています。当院細菌学教室のホームページでは、微生物学習用教材「バイキンズ®カード」を無償公開しているほか、ゲームやクイズなどAMRを楽しく学べるコンテンツも公開しています。また、学会や保健所などで医療従事者向けの講演を行ったり、一般向けにはこれら「バイキンズ®ワールド」をテーマに講演会やセミナーなどを随時開催しています。
※バイキンズ®は商標登録されています。
その中でもバイキンズ®カードは、ユニークですね。
金子氏 32種類の細菌や真菌を楽しみながら学べる、トレーディングカード風のカードになっています。もともとバイキンズ®のキャラクターが先にあって、カードは後から作りました。前任の国立感染症研究所で真菌(カビ)の病気について教えることになり、コクシジオイデスというカビのイラストを自分で描いたのが最初です。
微生物について楽しく学んでもらうために開発された「バイキンズ®カード」。
カードのデータはホームページ上で無償公開されているほか、1セット3,000円で販売されている。
親しみやすい見た目ながら内容は本格的
バイキンズ®のキャラクター名がまたユニークです。
金子氏 マクロファージ(白血球)を好むチフス菌は「(マクロファー寺というお寺に住む)チフス和尚」というように、覚えやすさをイメージして名前を付けました。ハイエンキューキン王(肺炎球菌)は宮殿に住んでいる、つまり人の体の中が好きな菌です。宮殿の中はご馳走がいっぱいあって外に出たら生きていくのが大変なので、基本的にヒト-ヒト感染以外しません。同じく宮殿に住むインフルエンザ菌はインフルエンザキンXV世女王と命名、王と女王がいたら姫(マイコプラズマ姫)だし、姫ときたら爺や(レジオネラ爺や)だろう、といった調子で名前や設定を考えていきました。
バイキンズ®LINEスタンプも登場。
カードの色やマークにはどんな意味があるのですか。
金子氏 カードの背景と左上のマークは菌の性質、すなわちどんな環境を好むかを表しています。宮殿(人体)、水(水系環境)、火(熱帯地域)、野外(人体外の環境)、マクロファー寺(マクロファージ)の5つがあり、これらの性質に応じて背景も5色に分けました。Typeはグラム陰性桿菌や抗酸菌など、菌の分類をシンボル化したもので、全部で10タイプあります。Fieldは得意分野(どこに感染するか)を示し、H(脳)、R(肺)、E(消化器)、U(泌尿器)の4つに絞ってシンボル化しました。またOffenseは感染力の強さ、Defenseは抗菌薬に対する耐性の強さを、星の数で表しています。
一般向けのようでいて、よく見るとかなり専門的ですね。
金子氏 一般の方でも理解できるよう作ってありますが、学生や医療従事者が細菌学を学ぶうえで必要な情報はきちんと盛り込むようにしました。また、トレーディングカード風ですが、細菌同士が戦うことはないので、カードとカードを争わせることは考えませんでした。
カードを作る時はどんな項目を入れるかかなり悩みました。最終的に菌の分類と感染臓器、それに病原性と耐性はやはり必要だろうと判断し、それ以外の特徴を一口メモにまとめて入れることにしました。菌によっては耐性(防御)にいくつかバージョンを設けています。例えば、ブドウキューキン族(黄色ブドウ球菌)は通常であれば★1つですが、メチシリン耐性(MRSA)になれば★2つ、バンコマイシン耐性(VRSA)ともなると★3つと、耐性が上がっていきます。
オンライン細菌学講座「楽しく学ぶ!耐性菌」より
「バイキンズ®ゲームズ」でAMRを楽しく学ぶ
AMRがよくわかる「金子の分類」
AMRをテーマに展開されている活動はありますか。
金子氏 私の講座では、学生向けと一般向けにオンライン細菌学講座を開いています。学生向けは事前登録が必要ですが、一般向けはどなたでもご参加いただけます。「バイキンズ®ゲームズ」として、クイズやゲーム、シアターといった楽しく学べる教材を多数ご紹介しています。例えば「バイキンズ®ウォー」は、ICT戦隊フセグンジャーとバイキンズ®の戦いを描いたノベルゲームです。挑戦者はフセグンジャーの一人として三択問題に答えながら、抗菌薬の使い方やAMRについて学べる内容になっています。そのほかMRSAに関する動画なども作成しました。
- フセグンレッド
- 「スキン村でブドウキューキン族が暴れているらしい」
- 隊員
- 「ペニシリナーゼを感知」「mecAはもっていないようです」
- どれで戦う?
- ペニシリンG
セファゾリン
バンコマイシン
ネット講座「楽しく学ぶ!耐性菌」は、専門知識がない人が見てもわかりやすく作られていますね。
金子氏 細菌の分類から耐性のメカニズムまで、バイキンズ®を用いて解説した講座です。細菌の新しい分類法「金子の分類」についても紹介しています。従来の「ドメイン・界・門・綱・目・科・属・種」という学術的分類法は細かすぎて覚えにくく、何より伝わりづらい。
金子の分類には、メインキャラクターとして「皇族系」「庶民系」「モンスター系」「異星人系」の4系統があります。いわゆる「医学生の間に絶対覚えておきたい」菌ですね。例えば皇族系はバイキンガム宮殿(人体)に住み、血液寒天(肺炎球菌)やチョコレート寒天(インフルエンザ菌)など贅沢な食事をしている菌です。これらメインキャラクターに属さない菌は「武闘派」「海賊派」「裸族」に分類されます。裸族はレジオネラやサルモネラなど属名の最後に「ラ」がくる菌で、すべてグラム陰性桿菌、すなわちグラム染色で赤く染まります。耐性菌を理解するうえではメインキャラの4系統がわかればよく、このうち皇族系の耐性菌は今のところあまり問題になっていないので、残り3系統を押さえておけば十分です。
『染方史郎の楽しく覚えず好きになる 感じる細菌学✕抗菌薬』じほう より
※「染方史郎」は金子先生のクリエイター名
こういう説明だとすんなり頭に入ってきます。
金子氏 「どうせやるなら楽しく学ぼう」ということは、いつも考えています。例えば「赤く染まるのはグラム陰性桿菌」を覚えるために、学生には「『赤は陰性』を10回唱えろ」と言っています。「赤は陰性、赤は陰性、……、赤ワイン」というわけで、インフルエンザキンXV世女王のカードは女王が赤ワインのグラスを持っているイラストを描きました。板チョコも持っているのは、インフルエンザ菌はチョコレート寒天培地で培養するからです。
「遊び感覚で楽しく」と考えるようになったのは何か理由があるのですか。
金子氏 私自身、学生時代は細菌学が覚えられず苦手だったからです。実際教える立場になってみると、何回説明しても学生は覚えていなかったりします。そこでできるだけ覚えることを少なくしようと、1回で覚えられるコツを教えたり、理屈をくっつけて説明したり、病理学的観点から話すようにして、単純に覚える必要があるものはダジャレや語呂合わせを作ったりしました。ダジャレを考えたりするのも楽しみながらやっているので、苦にはならないですね。電車に乗っているときにふと思い付いたりもします。