列島縦断AMR対策 事例紹介シリーズ ~地域での取り組みを日本中に“拡散”しよう!~

Stop AMR~今ある抗菌薬を大切に使いながら、新しい薬を生み出すための仕組みを作る~


日本製薬工業協会

2022年3月

今回は、AMR対策事例紹介として「AMR対策推進国民啓発会議」の賛同団体である、日本製薬工業協会(以下、製薬協)の取り組み"Stop AMR"を取り上げます。抗菌薬を製造販売する製薬企業の団体が、なぜあえて適正使用の啓発に取り組むのか。その背景や具体的な活動について、ご担当者の皆さんにお話を伺いました。

日本製薬工業協会
1968年に設立された、研究開発志向型の製薬企業による業界団体(2021年11月現在、73社が加盟)。「患者参加型の医療の実現」に向けて、医薬品に対する理解を深めるための活動や製薬産業の健全な発展のための政策提言などを行うほか、国際製薬団体連合会の加盟団体として各団体と連携しながらグローバルな活動を展開している。

お話を伺った皆さん(ご発言順)

森 和彦
日本製薬工業協会専務理事

有吉 祐亮
塩野義製薬株式会社

舘林 智子
Meiji Seikaファルマ株式会社

俵木 保典
第一三共株式会社

川上 勝浩
第一三共株式会社

今ある抗菌薬を大切に使ってもらう

薬剤耐性(AMR)対策アクションプランを受けて本格始動

はじめに、製薬協がAMR対策に取り組むようになった経緯を教えてください。

森氏 きっかけは、2016年に日本でも「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020」が策定されたことです。われわれ製薬協も政府からの要請を受けて、本格的にAMR対策に取り組むことになりました。

抗菌薬を製造販売する企業団体が、その抗菌薬をできるだけ使わないよう啓発するというのも、何だか妙な気がします。

森氏 背景には、製薬業界が抗菌薬の開発から長らく遠ざかっている状況があります。新規抗菌薬の開発は1990年代から徐々に行き詰まり、2000年代に入ると顕著になりました。このままいけば2010年頃には空白期間が生じるだろうといわれ、実際その通りになりました。かたや同じ2010年には、多剤耐性アシネトバクターによる院内感染の集団発生が国内で起こっています。開発が低調な一方で今ある薬が効かない菌は増えている、そしてそれらに打つ手がなく被害が広がるという状況は、日本だけでなく世界中で問題になっています。このまま何も対策をとらなければ、2050年には年間1,000万人がAMRで亡くなると推測されています1)。製薬業界としても非常に重要かつ深刻な問題であることから、AMR対策に協力していこうという流れになりました。

疾病構造の変化により開発の優先順位が低下

言われてみれば、最近は新しい抗菌薬の話題を聞きません。

森氏 企業としては経営の柱になる製品を優先して開発する訳で、昔はそれが抗菌薬でした。しかし日本の疾病構造が感染症から生活習慣病、さらにはがんへ移行するとともに、相対的に開発が難しく収益も上がりにくい抗菌薬は優先順位がどんどん下がっていきました。ただ医療現場において感染症は避けて通れない重要課題であり、必要な抗菌薬をきちんと供給することは製薬業界全体にとって重要な責務です。そのため、今ある抗菌薬を大切に使ってもらう一方で、新しい抗菌薬の開発にも取り組んでいく必要があると考えています。

実際、開発は行われているのですか。

森氏 限られた企業が、がんばって開発に取り組んでいる状況です。抗菌薬というのは、本質的に矛盾を抱えた製品です。耐性菌を出さないために必要な時に必要な量だけ使うようにしなくてはいけないですし、企業が努力してよく効く抗菌薬を開発すると、感染症は短期間で治り使用量も少なくて済んでしまいます。それでも抗菌薬を作り続ける企業の努力を無駄にしないよう、「大事に使ってください」と皆で声を揃えて伝えていこうということは、製薬協会員企業の間で共通の認識になっています。

活動の2本柱はスチュワードシップとアドボカシー

AMR対策のために、どのような体制を組んでいますか。

有吉氏 製薬協の12ある委員会の1つに国際委員会があり、AMR対策の取り組みは本委員会傘下の感染症グループで行っています。活動の軸は大きく2つあります。1つはスチュワードシップ(管理運用などの意)、すなわち抗菌薬の適正使用推進です。もう1つはアドボカシー(政策提言などの意)で、これには創薬推進のほか、創薬にともなう経済的課題を含めた感染症にまつわる社会的課題について理解をはかる活動などが含まれます。

スチュワードシップは今ある抗菌薬を大切に使ってもらうための活動ということですね。

森氏 適正使用というと無駄な使い方をしないようブレーキをかける方向だけに偏りがちですが、きちんと使うべき時にはしっかり使うことも徹底するのが、本来のスチュワードシップだといえます。

アドボカシーについて、もう少し詳しく教えてください。

森氏 スチュワードシップが「上手に使う」ための取り組みだとすれば、アドボカシーは「新しいものを生み出しやすくしていく」ための取り組みです。新しいものを生み出していくにはテクノロジーだけでなく、ビジネスに乗せるためのインセンティブ(動機付け、報酬の意)も必要です。製品として安定供給するために必要な利益が上がるような薬価を設定してもらう、といったインセンティブを確保しておかなければなりません。そのため製薬協では創薬を推進する一方で、インセンティブを確保するための政策提言や、これら一連の取り組みを広く社会に理解してもらうための広報活動も行っています。こうした活動全体をアドボカシーとよんでいます。

ポスターでAMRの重大さを啓発

ではまず、スチュワードシップについて伺います。具体的にどのような活動をしていますか。

舘林氏 スチュワードシップの目的は国民の皆様への啓発です。感染症に詳しくない一般の方にもAMRの重大さや自分たちに何ができるか理解してもらえるよう、まず啓発ポスターを作りました。ポスターは製薬協の会員企業のほか、日本医師会や日本薬剤師会などの職能団体にも配布しました。
 製薬協では、ホームページの中にAMR対策関連のコンテンツをまとめて見られるようにしたサイト「Stop AMR」を構築しており、ポスターを掲載しています。実際、サイトでポスターを見た医療機関から「待合室に掲示したい」というご要望をいただいたこともあります。
 また、視覚的・聴覚的にインパクトのある啓発動画を併せて作りました。これらの資材を掲載したサイト「Stop AMR」は、職能団体や日本感染症学会などの学会のホームページとリンクしたり、メーリングリストに載せていただいたり、できるだけ多くの方の目に触れるよう様々な働きかけをしています。くすりの適正使用協議会のブログでも、AMR臨床リファレンスセンターのHPに掲載の動画と組み合わせて、ご紹介いただきました。
 2019年には、本動画を用いて、保険薬局でAMRの認知度に関する意識調査を行いました。

Stop AMRポスター

どのような調査ですか。

舘林氏 ご協力いただいた全国の薬局で動画を流し、ご覧になった方に「どれぐらい理解できたか」「何に興味があったか」「自分たちでも感染制御のための取り組みができそうか」などについてアンケートを行いました。回答者は3,000名を超え、年齢層も小中学生から高齢者までと、幅広く回答が得られました。

アンケートの結果はいかがでしたか。

舘林氏 AMRを知らなかった方は約6割いましたが、半数以上が「動画を見ることでかなり理解できた」と回答していました。また「処方された抗菌薬は飲み切る」「人にあげない」「手洗いで感染を防ぐ」といった取り組みについては、かなりの高率で「やります」という回答が得られ、また周りの人に伝えようという意識もみられました。その一方で、14歳以下の小中学生における認知度は低く、啓発活動の必要性が示唆されました2)

小中学生も対象に教育や啓発を推進

子どもに対する啓発も大切かもしれませんね。

舘林氏 製薬協では2010年から学研キッズネット*1と協業して、「夏休み自由研究サイト」で製薬産業や薬に関する情報を提供しています。本サイトに2020年、新しくAMRのコンテンツを追加しました。「Stop AMR」でも同じものを見ることができます。
*1 1996年にオープンした、小中学生のためのウェブサイト。学習・教育・ゲームなどのコンテンツのほか、フォーラムなどオンラインコミュニティの場も提供している。

新型コロナウイルスが流行する以前は、セミナーなども実地開催されていたのでしょうか。

有吉氏 はい、2019年に日本医師会との共催で「薬剤耐性(AMR)セミナー~センメルヴェイスからの学び~」を開催しました。センメルヴェイス*2はハンガリーの医師で、細菌学が発展する以前に、臨床疫学から、医師の手洗いにより産褥熱による死亡を低減させることを見出し、手洗いを普及させた「感染制御の父」とよばれた人です。セミナーでは感染制御という視点から新たな抗菌薬開発の必要性まで多岐にわたり、産学官の関係者による講演やパネルディスカッションが行われました。
*2 Ignaz Philipp Semmelweis博士、産科医師、ウイーン総合病院、1818-1865年

こうしたセミナーは今後も開催を検討していますか。

俵木氏 このようなセミナーは、アドボカシータスクフォースという活動として開催しており、今回のようなセミナーや市民公開講座、国際的なセミナーなどを、毎年1つは開催したいと考えています。

予想を上回るアクセスがあったデジタル広告

2021年度における取り組みを教えてください。

有吉氏 大きく3つあります。まずOne Healthのフライヤーを作成しました。2つのメッセージがあり、表面ではOne Healthを理解いただくため、ヒト・動物・環境のOne HealthアプローチでAMR対策に取り組む必要性を解説しました。裏面では製薬企業にとってのOne Healthを考えた場合、環境面に着目し、抗菌薬を製造している企業が環境にどれぐらい配慮しているか、アンケート調査の結果を紹介しました。排水管理など環境に対する配慮は世界的に求められており、我々も今後ますます責任をもって取り組んでいかなければと考えています。

One Health フライヤー1 One Health フライヤー2 拡大用PDF

One Health フライヤー

ほかの2つの取り組みは何ですか。

舘林氏 サイト「Stop AMR」のリニューアルと、デジタル広告の配信です。コロナ禍以降実地での活動が難しくなり、人流も制限されたため、我々の活動もいかに製薬協のサイトにアクセスしてもらうかにウエートが置かれることとなりました。そこでまずは9月に製薬協ホームページリニューアルに合わせて「Stop AMR」を全面リニューアルし、さらに毎年11月のAMR対策推進月間に合わせてデジタル広告を作成・配信しました。

デジタル広告はどのようなものですか。

川上氏 スマートフォンやパソコンの閲覧サイトにAMRのバナー広告を出し、興味をもった人がクリックすると「Stop AMR」に飛んで、コンテンツを見られるようにしました。具体的には、11月の1カ月間で約750のメディアサイトにバナー広告を出しました。非常に小さな目立たない広告でしたが、想定の1.6倍、約2,280万回の広告が表示され、ページビュー数は1万5,434回にのぼりました。「Stop AMR」サイトのこれまでのページビュー数が月300~500ですから、かなり多くの方に見ていただくことができました。

表示されたバナー広告

表示されたバナー広告

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