列島縦断AMR対策 事例紹介シリーズ ~地域での取り組みを日本中に“拡散”しよう!~

抗菌薬適正使用普及のためのグラム染色検査の実施とその結果を患者教育に活かす取組み

第1回 AMR対策普及啓発活動 厚生労働大臣賞
2018年7月

薬剤耐性がこれ以上拡大する前に

診察の順番札裏にもイラストと菌名を入れて、少しでも親しんでもらえるように工夫している
診察の順番札裏にもイラストと菌名を入れて、少しでも親しんでもらえるように工夫している。
こうした取り組みを継続したおかげで、診察の際もスムーズに理解してもらえるようになった

患者さんも医療者も抗菌薬への意識は変えられる

地道な取り組みを評価され、昨年、第1回 AMR対策普及啓発活動 厚生労働大臣賞を受賞されました。受賞をお聞きになってどのような感想を持たれましたか?

稔彦氏 こんな田舎で細々と取り組んでいたことに気が付いてもらい、そして推薦いただいたことが信じられませんでした。もともと試行錯誤しながらで自信があるわけではなかったし、ほかの開業クリニックでグラム染色を始めたという話もなかなか出てこないので、本当にこれでいいのか? と不安になることは何度もありました。

 2015年には当院の取り組みについて報告することができましたが1)、この研究をまとめる間も本当は誰かこの分野の専門家に耳鼻科の外来でグラム染色を臨床活用することの有用性を示してもらえないだろうかと思っていました。ですから、受賞の話を聞いた時は推薦いただいたことへの感謝の念とともに、とにかく安堵しました。

グラム染色を導入されたのが2004年ですから、薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016年)が出される10年以上前から、お二人は抗菌薬の適正使用に取り組まれていたことになりますね。これからグラム染色の導入を検討しているクリニックの先生方にアドバイスをお願いします。

雅子氏 患者さんは「風邪は抗菌薬を使わないと治らない」とか「早く治すには抗菌薬が必要だ」とか思い込んでいます。それは、抗菌薬を用いずに風邪を治した経験がないからだと思います。私たちは、風邪であれば抗菌薬を出しても出さなくても治るタイミングは変わらないことを患者さんが体験する機会があるとストンと腑に落ちていくように感じています。

 一方で重症化させないこと、重症化のサインを見逃さないことが重要なのは言うまでもありません。抗菌薬を出すことが当たり前になっている現状では、抗菌薬を出さない時はよりきめ細やかな説明で患者さんの不安を取り除くことが必要になると思います。そういう時、医師の先生方にはメディカルスタッフとぜひ連携していただきたいと思います。

稔彦氏 グラム染色をすると起因菌の目途がつきますし、病気の勢いもわかります。最近は患者さん自身に「自分の力(免疫)でもう少しこの菌と戦ってみますか?」と聞いてみることがあります。実際、それで抗菌薬を出さずに治ることもあります。もちろん、重症化させない努力は必要ですが、そもそも外来に歩いて来られるような元気な人が急激に悪化することはそれほどありません。グラム染色のおかげで、そんなふうに気持ちに少し余裕をもって診察できるようになったかもしれません。

 グラム染色の情報が得られるようになると、感染症に対する考え方は本当にガラッと変わると思います。言葉だけを並べてもなかなか伝わりにくいのですが、一度体験するとグラム染色なしに診療できなくなります。まあでも、私も臨床で活用しようという気持ちになるまで約半年かかりました(笑)。最近、地域医療実習で同じ市内にある奈良県立医科大学から学生さんが見学に来ますが、グラム染色ってこんなふうに外来で使えるんだ!と喜んで見てくれます。こういう人たちが医師になり引き継いでいってくれたらうれしいと思いますが、それを待っている間に薬剤耐性はどんどん広がってしまいます。ですから、まさに今、できるだけ多くの医療従事者が一丸となって自分事として取り組まなければならないのではないかと思います。

(このインタビューは2018年5月12日に行いました)

参考文献

  1. 前田雅子, 前田稔彦, 松本加奈, 森田邦彦: 耳鼻咽喉科診療所でのグラム染色検査によってもたらされた抗菌薬の選択・使用の変化:予備的検討, 日本プライマリ・ケア連合学会誌2015, vol.38, no.4, p.335-339

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