列島縦断AMR対策 事例紹介シリーズ ~地域での取り組みを日本中に“拡散”しよう!~

「まちの診療所」で実践する感染症診療 ~「原則」に従った診療が結果的に適正使用になる~

2023年8月

このコーナーでは、薬剤耐性(AMR)対策のさまざまな事例をご紹介しています。第22回で取り上げるのは、静岡県浜松市の郊外で地域に根差した医療を提供している本康医院の取り組みです。院長の本康宗信先生は、「感染症診療の原則に従った診療」を長年にわたって実践されてきました。その具体的な取り組みについて、お話を伺いました。

本康宗信氏

本康宗信(もとやすむねのぶ)氏
本康医院院長

1989年三重大学医学部卒業、第一内科学講座入局、三重大学医学部附属病院勤務、1990年茅ヶ崎徳洲会総合病院、1995年虎の門病院循環器センター内科、2003年三重県立総合医療センターなどを経て、2006年より現職

基本は「感染症診療の原則を守る」

大きかった「原則」との出会い

はじめに、本康医院の概要を教えてください。

本康氏 当院は祖父が開業し、私は父を継ぐ形で2006年に院長になりました。専門は循環器内科ですが、もとはといえば近隣の住民が通う「まちの診療所」ですので、内科を中心にあらゆる主訴に対応しています。高齢の患者さんが多く、なかには100歳を超える方もいます。また、「おじいさんの代から3代続けて通っているよ」という方もいます。

本康医院(静岡県浜松市)

本康医院(静岡県浜松市)

その「まちの診療所」で抗菌薬適正使用に取り組むようになった経緯を教えてください。

本康氏 私自身は、特に「適正使用をしよう」と思ってやってきたわけではありません。そもそも感染症学として独立した教育を受けていない世代であり、臨床実習や指導医から得た知識をもとに診療していました。当時は抗菌薬の使い方も、各診療科でばらばらでした。
 感染症診療について本格的に学んだのは、三重大学医学部第一内科に入局して2年目に、茅ヶ崎徳洲会総合病院(現・茅ヶ崎徳洲会病院)に派遣されてからです。グラム染色や培養なしに抗菌薬を使うことは許されず、第3世代セフェム系は許可制でした。そこで抗菌薬の使い方を教わったこと、特にペニシリン系の使用経験を積んだことが、後々役に立ちました。

それまでとはずいぶん状況が違ったのですね。

本康氏 はい。大学病院に戻った後は、国立国際医療研究センター(NCGM)出身の田辺正樹先生(現・三重大学医学部附属病院感染制御部部長)や青木眞先生(現・感染症コンサルタント)に、改めて「感染症診療の原則(表1)」を教わりました。原則は「こんなに簡単でいいんだ」「これだけやればもう悩まなくていいんだ」と思えるぐらいシンプルなものです。多くの抗菌薬を覚える必要はなく、診断、治療への道筋がわかりやすいことが利点でした。それからは「原則に従って診療する」ということを、ずっと続けています。

表1 感染症診療の原則

表1 感染症診療の原則

感染症診療の原則は、病院も診療所も同じですか。

本康氏 同じです。ただ、診療所の方がよりシンプルといえるかもしれません。病院では耐性菌や免疫不全患者など、考えるべきことがたくさんあります。一方、診療所で診るのはほぼ市中感染で、起因微生物の種類も使う抗菌薬も限られています。

診療所内でグラム染色を実施

ふだんどのように診療しているか、大まかな流れを教えてください。

本康氏 診察の過程で感染症が疑われたら、免疫状態や曝露歴など患者背景を把握し、病歴や身体所見などから感染臓器をみきわめて、原因微生物を推定します。当院では、院内でグラム染色を行い、必要に応じて培養検査を外注しています。治療は自院や静岡県のアンチバイオグラムを参考に、推定起因菌に最も有効と考えられる抗菌薬を選択しています。そして各感染症の自然経過や感染臓器に特異的な所見などもふまえながら、経過をフォローしています。

院内でグラム染色しているのですか。

本康氏 以前は外注していたのですが、院内でやった方が早いし確実だろうということで、2013年から始めました。準備や片づけは看護師がしてくれるので、非常に助かっています。始めた頃はスタッフに染色画像を見せて、菌種や使用抗菌薬、経過などを説明していました。そこでグラム染色の必要性を理解してもらえたことが、今につながっていると思います。とても感謝しています。

院内に設けられたグラム染色コーナー

院内に設けられたグラム染色コーナー

清掃が行きわたり、隅々まで清潔に保たれている。備品は100円ショップで購入したものも多い。

かなり手際がよさそうですね。

本康氏 例えば尿路感染の場合、患者さんが排尿痛や残尿感を訴えたら、その時点でもう看護師がグラム染色の準備を始めます。同時進行で尿検査を行い、検体を受け取るとすぐ看護師がスライドグラスに一滴落とし、乾かし始めます。この間私の方では尿沈渣を見て、「白血球が多いし、細菌もあるからグラム染色しよう」と判断した頃には、ちょうど乾いているので染色する、といった具合です。

それでも外来が混んでいる時は大変ではないですか。

本康氏 当院はそこまで患者さんが多くないですから(笑)。何より、原因がわからないのに治療するのは非常にストレスなので、細菌感染が疑われかつ検体が採れれば、できるだけ染色するようにしています。戦う相手がリアルタイムにわかれば、抗菌薬の選択がしやすく、また病勢のフォローや培養結果の解釈にも役立ちます。

院内のグラム染色で「念のため処方」が減少

呼吸器感染の場合もグラム染色していますか。

本康氏 当院では上気道感染の患者さんを診ることが多いのですが、ウイルス性がほとんどで、熱があるからといってすぐグラム染色することはありません。また一般的に、細菌感染は1つの臓器のみであるのに対し、ウイルス感染は複数の臓器に及びます。喉が痛くて鼻汁が出て、ほぼ同時に咳や熱もあるという場合はウイルス性、いわゆる風邪なので、はじめから抗菌薬の投与は考えていません。呼吸器感染でグラム染色するとしたら肺炎ですね。

その場合はどのような流れで診療していますか。

本康氏 細菌性肺炎では下気道の症状が主になります。喀痰や咳が出て熱があり、しかし鼻汁はそれほど出ないし喉もあまり痛くないという場合には、細菌性肺炎を疑ってX線検査を行います。そこで診断が確定し、かつ全身状態から外来で治療できそうであれば、喀痰を採ってグラム染色をしています*。症状が重い場合や、合併症がある方で、入院の必要がある場合には、病院にご紹介をしています。

  • *注:新型コロナ流行期は実施せず

実際にグラム染色の有用性は高いと感じますか。

本康氏 当院では、抗菌薬の処方割合を毎年出しています。グラム染色を外注していた頃は2%前後だったのが、院内でやるようになってからは減ってきて、現在は0.5%程度です(図1)。院内で行うことで、「念のため処方」が減ったためと思われます。

図1 本康医院におけるグラム染色検査数と抗菌薬処方割合の推移

図1 本康医院におけるグラム染色検査数と抗菌薬処方割合の推移

必要に応じて培養検査も実施

グラム染色に加え、細菌培養検査も行っているのですね。

本康氏 培養しないと抗菌薬の感受性がわからないので、グラム染色で細菌が認められた場合は検査に出しています。ちなみに、血液培養は年間5~6件と数は少ないですが、該当患者さんはそもそも全身状態が悪いため、すぐ対応できるよう培養ボトルは常備しています。

培養結果は患者さんにフィードバックしていますか。

本康氏 例えば急性膀胱炎の場合、抗菌剤薬は3日分処方し、「3日後にもし症状が残っていたら、もう1回来てください」と伝えています。症状がよくなっても、培養結果を説明するために来院していただきます。グラム染色の結果を見ていただき、培養結果と感受性を説明したうえで、治療終了としています。

アンチバイオグラムに基づいて抗菌薬を選択

抗菌薬はアンチバイオグラムに基づいて選択しているとのことでしたね。

本康氏 はい。アンチバイオグラムには当院で毎年作成しているものと、静岡県が公開している県内地域別のものがあります。大腸菌においては自院のものも参考に、グラム染色で推定した起因菌に最も有効と考えられる薬剤を選択しています。2019年からは、県内のアンチバイオグラムをもとにした「外来での抗菌薬適正使用手引き」も発行されており、現在はおおむね本手引きに従って選んでいます。

具体的にどのような抗菌薬を使っていますか。

本康氏 例えば、尿路感染の起因菌は大腸菌がほとんどです。グラム染色でグラム陰性桿菌が認められた場合はST合剤を、また連鎖球菌であればペニシリンを使っています。喀痰グラム染色でグラム陽性双球菌が多く認められた場合は、肺炎球菌性肺炎と考え、感受性が良好なペニシリンで治療を開始します。溶連菌による咽頭炎もペニシリンが第一選択となります。

使う種類は限られているのでしょうか。

本康氏 メインで使うのはST合剤、ペニシリン系のAMPC(アモキシシリン)、第1世代セフェム系のCEX(セファレキシン)、それにマクロライド系のAZM(アジスロマイシン)の4つぐらいです(表2)。実際のところ広域抗菌薬は使用する機会がなく、ニューキノロン系に至ってはここ数年使う機会がありませんでした。

表2 診療所で使う抗菌薬

表2 診療所で使う抗菌薬

抗菌薬の処方割合など、自院のデータをきちんと管理されているのですね。

本康氏 抗菌薬を使用した患者さんすべてにおいて、データを取っています。グラム染色や培養検査をした場合は所見や結果を記録し、年ごとに起因菌と感受性、抗菌薬使用量をまとめています。検体を採らずに抗菌薬を使った場合も、記録に残しています。これらのデータは年末に改めてふり返り、不要であったかもしれない例、結果的に必要と考えられた例を確認しています。
 また2022年からは、J-SIPHE(感染対策連携共通プラットフォーム)の診療版であるOASCIS(診療所における抗菌薬適正使用支援システム )にも参加しています。レセプトコンピュータの請求情報などを利用してデータ登録することで、自施設の現状把握や他施設との比較などが簡単にできます。

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