薬剤の研究開発
1920年代にフレミングがペニシリンを発見し、1940年代に実用化されてから、今日までの約70年間に抗菌薬の研究開発が進み、数多くの抗菌薬が発売されてきました。これにより、それまで死因の上位を占めていた肺炎や結核などの感染症は、衛生環境の改善もあいまって激減しました。
しかし、感染症治療のために抗菌薬を投与すると、抗菌薬にさらされた微生物はなんとか生き延びる方法を考え、新たな耐性菌が生み出されます。さらに新しい抗菌薬が開発されると、それに耐性をもつ菌が生じる、といったことが繰り返されます。一方で新しい抗菌薬の開発はかなり難しい状況が続いています。
日本の抗菌薬開発(品目数)の年次推移
舘田一博:抗菌薬開発停滞の打破へ向けて 日本内科学会雑誌 第102巻 2908-2914; 2013より引用
米国で承認を受けた抗菌薬は劇的に減少している
IDSA, Facts on Antibiotic resistance より一部改変して引用
新規抗菌薬開発には、膨大な数の候補物質から絞り込んだり新たな作用点を見つけたりすることが必要ですが、これがなかなか見つからないという難しさがあります。さらに、新しい抗菌薬の開発には莫大なコストと時間がかかります。その上、抗菌薬は、高血圧や糖尿病など慢性疾患の治療薬と比べると投与期間が短いため、使用される頻度が高くても、企業にとってはあまり利益を生まない薬剤となっています。そのため、多くの企業は抗菌薬の開発から撤退せざるを得ず、新しく承認される抗菌薬がほとんど出てこない状況に陥っているのです。
菌の薬剤耐性化がすすむ一方、抗菌薬の開発が停滞すると、耐性菌による感染症にかかった場合に、治療が大変難しい状況になります。このような事態を避けるためには、企業とともに研究機関や政府・関係省庁が連携して新規抗菌薬の開発に取り組むことが必要になってきます。米国では創薬をサポートするためにGAIN法(The Generating Antibiotic Incentives Now Act of 2011)という法律が施行されました。これは、耐性菌に有効な抗菌薬を対象として市場独占期間を5年間延長する、などの優遇措置が定められたものです。日本の「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」でも、産学官が連携して、新たな予防・診断・治療の開発に資する研究を推進するとされています。
今後、新たな抗菌薬の開発を推進するとともに、抗菌薬を正しく使うことにより、現在使える抗菌薬の効力を温存し、長く使えるようにすることも大切です。